今回がちょうど1年目の最後になる。このコラムでは、カーリングファンにとっては既に通ってきた道であり、退屈な内容だとは知りつつも、時折基本的なルールやショットを紹介している。それはタイトルの「ようこそ カーリングの世界へ」という名の通り、なるべく多くの人がカーリングに興味を持ってもらう入り口になればとの想いからだ。

そんな時に役立っているのが、カーリングファンではない人たちの感想である。

なぜならば、カーリングを知れば知るほどに、僕は「カーリングがよくわからない、難しい」という彼らの感覚と乖離していくことに気づかされるからだ。思えば、テレビに2時間も3時間もかじりついてカーリングを観ている人は、まだそう多くはない。解説や実況の声に耳をかたむけていれば、ルールもわかりそうなものなのにと思うが、何かの片手間で見ている人はそこまで傾聴してテレビを見ていないことも改めて実感させられた。

そこで、今回はカーリングをテレビ観戦する時に、抑えておくべき基本的なポイントを紹介しようと思う。テレビの前で展開されている1つのエンドに対して、選手たちはどんな狙いを持っているのか見ていこう。

カーリングの定石は「有利な後攻で2点以上取って、不利な先攻で相手を1点に抑える」

テレビをつけた時、先ずはそのエンドで「どちらが先攻でどちらが後攻なのか? 」に注目しよう。カーリングは得点を取ったチームが次のエンドでは不利な先攻を持つのがルール。そこで、カーリングでは有利な後攻で2点以上取って、不利な先攻で相手を1点に抑えるのが理想的な試合運びだ。下の得点経過例①を見ればチームAの優勢が一目瞭然でわかるだろう。チームAは、後攻時に相手の石をハウス中央から除きながら自分の石をハウス内に複数残し、先攻時には複数の石を一度に出されないようにハウス内に残したりすることで、チームBの複数得点を防いでいることが想像できる。

〈得点経過例①〉※10エンド制で第1エンドはチームAの後攻とする
チームA 202020    │6
チームB 010101    │3

後攻チームが複数得点の次善策として狙う「ブランクエンド」

有利な後攻で2点以上取って、不利な先攻で相手を1点に抑えることがカーリングの定石とはいえ、状況によっては困難な展開も生まれてくる。複数得点が難しい場合、後攻チームは何を狙うのか? それは、ハウス内にどちらの石も残さない「ブランクエンド」だ。

〈得点経過例②〉※10エンド制で第1エンドはチームAの後攻とする
チームA 2020     │4
チームB 0101     │2

上の得点経過例②で赤字になっている両チームとも無得点の第5エンドがブランクエンド。前述の通り、カーリングは得点を取ったチームが次のエンドでは不利な先攻になってしまう。ということは、“得点を取らなければ”次のエンドも有利な後攻をもてるということ。チームAは、相手の石をハウス内から排除しつつ自分の石もハウス内に残さないブランクエンドを作ったことにより、得点差をキープしたうえで第6エンドも有利な後攻をもつことに成功したのだ。

後攻の複数得点もブランクエンドも許さない、攻撃的な先攻チームの「スチール」

先攻チームは相手の得点を1点に抑えるのが定石と紹介したが、得点経過例②のBチームの場合はどうだろうか? ブランクエンドにより第6エンドはチームAが後攻。ここからチームBが定石どおりに運んだとしても、チームAは第6、8、10エンドの後攻で計3点。対するチームBは第7、9エンドの後攻で計4点となり、逆転することは不可能となる。そこで、チームBが第6エンドで狙うのは「スチール」だ。

〈得点経過例③〉※10エンド制で第1エンドはチームAの後攻とする
チームA 20200    │4
チームB 01010    │3

「スチール」とは不利な先攻チームが1点を取ること。相手よりハウス中央に近い石を作り、ガードストーンを使って守り抜く状況ができれば大きなチャンスだ。先攻とはいえ、1点を取れるチャンスならば、みすみす相手に点数を与える必要もない。スチールという言葉通り、有利な後攻チームから得点を“盗む”、より攻撃的なエンドだ。上の得点経過例③では、チームBが赤字になっている第6エンドでスチールに成功。このスチールによって、チームBは残り4エンドを先攻時に1点取らせて後攻時に2点取ることで逆転が可能になった。

スチールは試合の流れを大きく左右する。リードしているチームにとっては勝利をグッと手繰り寄せるエンドになり、劣勢のチームにとっては反撃の狼煙を上げるエンドとなる。また、同点で最終エンドを迎えた場合は、スチールを狙う先攻とそれを許すまいとする後攻のせめぎあいは最高のハイライトシーンだ。

家事の手が空いたほんの少しの時間。何の気なしに暇つぶしで。そんな時にテレビのカーリング中継を視聴したならば、両チームの狙いを頭に入れながら見ていただきたい。後攻のチームは、2点以上取りたいんだな。0点でもいいんだな。先攻チームは、相手を1点に抑えたいんだな。複雑なショットや難解な戦術がわからなくても、そんな風にエンドの攻防を見るだけで、漠然と見るより格段に観戦を楽しむことができるはずだ。また、実況も解説もない現地観戦デビューの予行演習になるかもしれない。

(「ようこそ カーリングの世界へ」土手克幸)