声を出しての応援を控えるようアナウンスされていた日本選手権長距離の会場、大阪・ヤンマースタジアム長居は〝静かな盛り上がり〟が幾度となく広がった。

田中希実(豊田自動織機TC)vs. 廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)の女子5000m東京五輪代表の座をかけた争い。新谷仁美(積水化学)が日本新記録で決めた女子1万mの東京五輪代表内定。男子1万mでは相澤晃(旭化成)が日本記録を更新、東京五輪参加標準記録も突破して内定を獲得した。男子5000mに出場した吉居大和(中大)も自身が7月にホクレン・ディスタンスチャレンジで打ち立てたU20日本記録を塗り替えている。

タイムレース方式となった男子1万mの1組目に登場したのは中谷雄飛と太田直希の早大3年生コンビ。中谷はスタートするとすぐに集団の先頭に立つ。4000mを過ぎ、縦長の集団で5番目付近にいた市田孝(旭化成)が前に出てレースをけん引しようとすると中谷は反応し、ぴたりと市田の後ろに位置を取る。太田も中谷の2~3秒後ろではあるものの、大六野秀畝(旭化成)らとレースを進めていた。

8000mを22分25秒で通過後は、中谷、市田、大六野、太田がトップ集団を形成。残り1000mを切ると、中谷が集団から飛び出し、一度は2秒ほど差をつけたが、市田と太田は中谷を離さない。そして太田が中谷に追いつくと、そのまま前に出た。今度は太田がリードを奪おうとするが、中谷と市田も懸命に食らいつく。3人に絞られた集団は最後の1周を迎える。中谷が意地を見せ、前に出るとそのまま市田とデッドヒートを繰り広げた。残り約200mで市田がスパートかけると27分52秒35で先着する。そこに続く形で中谷、太田ともに両手を上げて、喜びを表しながらフィニッシュ。記録は中谷が27分54秒06、太田が27分55秒59だった。

早大の3年生コンビにとっては、自身でレース展開しながらともに28分18秒台だった記録を20秒以上も更新したことは大きな糧になっただろう。

全日本大学駅伝の後、箱根駅伝に向けて「人数が少ない分、層の薄さが出てしまう。チーム全体として強くならないとまだまだ戦えない。僕らが引っ張って、チームの底上げをしながら僕らは僕らでもっと上を目指す感じで練習をしていきたい」と太田は口にしていた。

11月の早大競技会5000mでは小指卓也(2年)が13分41秒1をマークし、日本選手権男子5000mに出場している。順位こそ振るわなかったが最後に追い上げる走りをし、13分58秒30でフィニッシュした。

小指のみならず井川龍人(2年)、宍倉健浩(4年)、山口賢助(3年)、鈴木創士(2年)、半澤黎斗(3年)も11月に入って記録を更新する仕上がりをみせている。

一歩ずつ、一歩ずつ着実に大学駅伝で3冠を達成したころのように、臙脂のプライドを取り戻そうとしている。残り1か月を切った箱根駅伝では、どんな番狂わせを見せてくれるのだろうか。

(「学生陸上スポットライト」野田しほり)