これまでに、運動スキルを効率的に習得していく方法を示してきました。しかし運動スキルだけではなく、試合中での予測や状況判断といった知覚スキルの習得も必要になります。体力があり高い技術を持っていたとしても、状況を読んでそれに合った最適なプレーができなければ良い結果を得ることはできないのです。試合勘を高めるためにも知覚トレーニングを行って、予測力や状況判断能力を向上させることが重要になってきます。

そもそも知覚スキルで選手それぞれに差が生まれるのは、どんな能力に差があると思われるでしょうか。

今までに行われた研究では、視力や視野などの「視覚能力」や、「一般的な知的能力」は、知覚スキルの優劣とは関連していないという結果が得られています。知覚スキルに最も影響を与えているのは、選手が記憶している「知識構造」にあるとされています。

この知識構造は、大きく分けて2つの知識で構成されています。まず1つは、競技に関するルールや状況、能力、プレー選択、戦術といった、「あらかじめ備えておくべき基礎的な知識」である〝宣言的知識〟と呼ばれるものです。

そしてもう1つは、試合状況での効果的なプレーの仕方についての知識である〝手続き的知識〟と呼ばれるものです。これは、状況それぞれにおいて必要な情報を収集し、そこでプレー選択を行う「ノウハウ」とも言えます。

予測や状況判断能力の高い選手は、質・量ともに豊富な宣言的知識を持ち、かつそれらの知識から状況によって瞬時に有効なプレーの選択ができる手続き的知識も持っているのです。

これらの知識を養っていくことで、知覚スキルが高まっていくことになります。試合での予測や状況判断能力を上げていくための知識をつけるには、ビデオを使った知覚トレーニングが推奨されています。現在スポーツを行っている方であれば、対戦チームについてや自分のプレーについて、ビデオを用いて研究を行っているのではないでしょうか。特に球技や格闘技など多様な状況の変化によって技術を選択してプレーするような競技では、実際にビデオを用いて自ら試合状況の予測や判断をしています。これが効果的なトレーニングとなっており、知覚スキルの学習として十分実用化できるのです。

時間を制限せず、有効な状況判断が何かを考えたり話し合ったりして、一般的な知識が得られるような知覚トレーニングであれば、宣言的知識の獲得を重視した学習になります。また、試合と同じように時間的な制限をかけ、特定の状況を想定して意思決定を下すような知覚トレーニングを課せば、手続き的知識の獲得を重視した学習になるでしょう。

ただ「ビデオを用いたトレーニングが実際のプレーで生かすことができるのだろうか」という疑問もあるかと思います。しかし、知覚トレーニングによるスキルの向上が、実際のプレーに生かされている研究結果が得られています。身体を動かさないトレーニングであっても、知覚スキルを向上させることは決して無駄にはならないのです。

悪天候のときや怪我で練習ができない場合、疲労で身体を休ませたい場合があると思います。そういった際には知覚トレーニングを積極的に取り入れてみるといいでしょう。

ただ、フィールド上でも知覚スキルを向上させる練習を取り入れることはできます。対人や対チーム競技であれば、相手をつけた練習を行うことで手続き的知識向上のトレーニングになります。そのほかにも、試合形式で行う練習の中で、中断しながら状況判断を改善するための指摘や指導を行うことがあると思います。野球であれば、イニングやアウトカウント、ランナーなど状況を想定した上での練習、サッカーであればピッチサイズを狭くしたり両サイドはディフェンスできないようフリースペースとするような制約を設けた練習があります。

これらのようにシチュエーションの確認や設定、変形を行うことが、知覚スキル向上のトレーニングになります。しかしながら、フィールド上での知覚トレーニングは状況判断だけに集中することはできず、あらゆる状況をこなしていくにも練習時間がかかりすぎてしまいます。したがって、室内でビデオを用いた知覚トレーニングと併用して試合予測や状況判断能力を鍛えていけばいいかと思います。【完】

※『note』より加筆・修正。

(「パフォーマンスを上げるためのスポーツ心理学」松山林太郎 )