前回説明したイメージトレーニングは、頭の中で自分自身のプレーを想起させる練習でした。しかしお手本を見ることや映像を使うなど視覚を用いて想起させてトレーニングを行うこともできるでしょう。このようにデモンストレーションやトップ選手の映像を見るなど、他者の動作を観察することで学習することを〝観察学習〟と言います。

イメージトレーニングは作戦能力やスキル習得、感情の強化に効果がある

指導者が選手に言葉だけでは伝えにくい場合、指導者自ら、もしくは技術を身につけている選手にお手本を実際に示して伝えることもあります。また技術を習得したくてプロの選手の動画を見て、自分が練習する際にその動画を参考にしながら試行錯誤をすることもあるかと思います。これらも観察学習のひとつです。「そんなこと言われなくても、もう行っている」と思われる人も多いかと思いますが、あえてこう記したのも、大きい効果が得られるからなのです。

観察学習は、重要な情報を「注意」して取り出し、その情報を脳内に取り込んで「保持」し、この記憶した情報を用いて「運動再生」させる過程を経ます。この一連の過程が「やる気」にも深く関与するので、効果があると言われています。また良い例を見ることで習得する過程の試行錯誤が減り、トレーニングの効率も上がるとも言われています。

イメージトレーニングと並行して、今まで以上に観察学習を行う意義を実感しながら練習に取り入れてもらいたいと思います。

指導者がデモンストレーションを行う際に注意してほしい点があります。ひとつは、お手本を見せる角度はなるべく選手たちが行う動作や視線と同じ方向で示すことです。動作を示す際にはつい選手と対面で行いがちかもしれませんが、選手にとってはお手本の動きとは反対のものを頭の中で変換させなければなりません。例えばゴルフで選手を指導する場合、コーチは選手の真後ろや前など、選手と同じ方角を向くべきなのです。

このようにして、選手の心的負荷はなるべくかけないよう指示してあげることが、上達への近道になるでしょう。もうひとつは、選手が初心者の場合は特に、どこに注意して観察してもらいたいのかを絞って示します。多くの情報をまだ処理し切れない段階であれば、重要な箇所を提示して習得できるよう方向づけてあげると良いでしょう。

※『note』より加筆・修正。

(「パフォーマンスを上げるためのスポーツ心理学」松山林太郎 )