2018年の日本陸上界は、マラソン・駅伝、一部の長距離記録会を残し、ほぼシーズンが終了した。今年は男子のマラソン、110mハードル、50km競歩、砲丸投、円盤投で日本記録が誕生したほか、U20日本新、高校新、U18日本新、中学新と各カテゴリーで記録ラッシュの1年だったといえる。

<2018年に誕生した日本新記録>
(※オリンピック&世界選手権で実施される種目)
●男子マラソン 
設楽悠太(Honda)2時間6分11秒
大迫 傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)2時間5分50秒
●男子110mH
金井大旺(福井県スポーツ協会)13秒36
●男子50kmW
野田明宏(自衛隊体育学校)3時間39分47秒
●男子砲丸投
中村太地(チームミズノ)18m85
●男子円盤投
湯上剛輝(トヨタ自動車)62m16

世界に目を向けると、今年は男子のマラソン、十種競技、女子は3000m障害で世界新記録が誕生した。今年は世界選手権もオリンピックも開催されない年だったが、IAAF(国際陸連)のサイトにある「年度別世界トップリスト」を見ると、比較的記録水準の高い1年だったように思う。

来年はドーハ世界選手権、そして2年後には東京オリンピックが迫っているが、はたして日本選手はどこまで戦えるのか。今回は現在の日本記録が2018年の世界ランキングで何位に相当するのかを検証し、記録の〝価値〟を数値化したいと思う。

※右端が2018年IAAF世界ランキング(11日20時点)における該当順位
※赤字が世界10位以内、青字が70位以下の種目
※種目は2019年世界選手権実施種目のみ
※男女リレーは除く

<男子>
100m 9.98 桐生祥秀(東洋大) 17年 18位
200m 20.03 末續慎吾(ミズノ) 03年 18位
400m 44.78 高野進(東海大クラブ) 91年 25位
800m 1.45.75 川元奨(日大) 14年 55位
1500m 3.37.42 小林史和(NTN) 04年 79位
5000m 13.08.40 大迫傑 (NikeORPJT) 15年 18位
10000m 27.29.69 村山紘太(旭化成) 15年 5位(※2017年21位)
110mH 13.36 金井大旺(福井県スポーツ協会) 18年 22位
400mH 47.89 為末大(法大) 01年 6位
3000mSC 8.18.93 岩水嘉孝(トヨタ自動車) 03年 21位
走高跳 2.33 醍醐直幸(富士通) 06年 8位
棒高跳 5.83 澤野大地(ニシ・スポーツ) 05年 9位
走幅跳 8.25 森長正樹(日大) 92年 16位
三段跳 17.15 山下訓史(日本電気) 86年 15位
砲丸投 18.85 中村太地(チームミズノ) 18年 157位
円盤投 62.16 湯上剛輝(トヨタ自動車) 18年 61位
ハンマー投 84.86 室伏広治(ミズノ) 03年 1位
やり投 87.60 溝口和洋(ゴールドウイン) 89年 8位
十種競技 8308 右代啓祐(スズキ浜松AC) 14年 9位
マラソン 2.05.50 大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト) 18年 17位
20kmW 1.16.36 鈴木雄介(富士通) 15年 1位(※世界記録)
50kmW 3.39.47 野田明宏(自衛隊体育学校) 18年 1位

<女子>
100m 11.21 福島千里(北海道ハイテクAC) 10年 68位
200m 22.88 福島千里(北海道ハイテクAC) 16年 69位
400m 51.75 丹野麻美(ナチュリル) 08年 65位
800m 2.00.45 杉森美保(京セラ) 05年 43位
1500m 4.07.86 小林祐梨子(須磨学園高) 06年 74位
5000m 14.53.22 福士加代子(ワコール) 05年 12位
10000m 30.48.89 渋井陽子(三井住友海上) 02年 2位(※2017年5位)
100mH 13.00 金沢イボンヌ(佐田建設) 00年 64位
400mH 55.34 久保倉里美(新潟アルビレックスRC) 11年 32位
3000mSC 9.33.93 早狩実紀(京都光華AC) 08年 35位
走高跳 1.96 今井美希(ミズノ) 01年 8位
棒高跳 4.40 我孫子智美(滋賀レイクスターズ) 12年 59位
走幅跳 6.86 池田久美子(スズキ) 06年 9位
三段跳 14.04 花岡麻帆(三英社) 99年 38位
砲丸投 18.22 森千夏(スズキ) 04年 28位
円盤投 58.62 室伏由佳(ミズノ) 07年 54位
ハンマー投 67.77 室伏由佳(ミズノ) 04年 55位
やり投 63.80 海老原有希(スズキ浜松AC) 15年 12位
七種競技 5962 中田有紀(さかえクリニック) 04年 44位
マラソン 2.19.12 野口みずき(グローバリー) 05年 7位
20kmW 1.28.03 渕瀬真寿美(龍谷大) 09年 12位
50kmW 4.29.45 園田世玲奈(中京大) 18年 25位
(※女子50kmWは2018年12月31日付で日本記録として公認)

青字で示したのは世界ランク70位より下の選手。これらの種目はすべて2017年のロンドン世界選手権の参加標準記録を下回っており、日本記録を更新しないと世界に行けない種目(国際陸連Invitationによる例外あり)である。つまり、全種目の中でも世界から遠のいている種目とも言えるだろう。
(※青字でなくても、男子円盤投、女子100mH、女子棒高跳、女子三段跳、女子円盤投、女子ハンマー投、女子七種競技の7種目はロンドン世界選手権の標準記録を破れていない)

一方、赤字で示したのは2018年における世界トップ10に入る種目。これらの記録を更新、もしくは近い記録を出せば、現在の世界トップクラスとも対等に戦える種目であるということだ。なかでも、今年樹立された男子50km競歩が堂々世界ランク1位なのは心強い。近年の競歩におけるメダルラッシュを象徴する数字だ。

なお、男女1万mに関しては、世界的にレースの開催数が少ないため、あまり参考にはならない(10月、11月の日体大長距離競技会で立て続けに樹立された男子の今季世界最高記録もIAAFに反映されていないようだし……)。女子は2017年でも5位相当のため記録的価値が高いといえるが、男子は2017年だと21位相当まで下がる。そのため、男子は筆者の独断で赤字から除外させてもらった。

こうして色分けしていくと、どの種目で日本勢が世界で戦えるのかという1つの指標が浮かび上がってくる。世界から遠のいている種目があるのと同時に、日本記録を出せば世界と勝負ができる、という種目も数多くあることがわかった。

現時点(11月20日)で来年のドーハ世界選手権の参加標準記録は発表されていないが、なかには前回大会よりも水準が上がる種目も出てくるだろう(※ドーハ世界選手権での世界ランキング制度の導入は見送りになった)。15年以上も破られていない日本記録が世界選手権実施種目で男女13種目もあることから、日本勢はさらなるレベルの底上げが必要になりそうだ。

(「データで楽しむ陸上競技」松永貴允 )