シーズンの前半が終わるタイミングだ。多くの日本記録が生まれたシーズンの前半戦だった。自国開催の〝五輪〟がもたらした力は大なり、小なりあっただろう。

無論日本記録がすべてでなく、今シーズンも数多くの選手が過去の己を超えた。それは五輪効果だけではない。個々のモチベーションやそれまでの努力。加えてチームの勢いも影響するだろう。

昨年度は全日本大学駅伝の優勝と箱根駅伝の総合優勝を成し遂げた駒大。箱根駅伝を終えた直後に大八木弘明監督は「今勝ったばかりで、まだ来年のことを言うとまだあれなんですけど」と前置きをしながら、「当然全日本大学駅伝は連覇したいなと思っていますし、出雲駅伝もあれば、それこそ三大駅伝を獲りにいきたい」と語っていた。

その言葉の実現も難くないと思うほど、今年のシーズン前半は駒大の選手が好記録を連発した。全日本大学駅伝、箱根駅伝の勝者となった勢いなのだろうか。

3年生ながら主将を務め、エースでもある田澤廉。田澤に続くエース、鈴木芽吹(2年)。彼らの勢いは止まることを知らないのか。

4月の日本学連10000m記録会に出場した鈴木は27分台目前の28分00秒67を叩き出す。

その約1カ月後、東京五輪の代表選考を兼ねた日本陸上競技選手権大会10000mで田澤、鈴木は実業団選手を相手に果敢に攻めた。田澤は27分39秒21。鈴木は4月に出した自己ベストを20秒近くも縮める27分41秒68でフィニッシュした。東京五輪男子10000万mの参加標準記録を超えることはできなかったが、田澤と鈴木は揃って表彰台に立った。

この大会で田澤と鈴木は2014年の大迫傑(当時早大4年・現Nike)が記録した27分38秒31に次ぐ、日本人学生2位と3位にランクインしている。

先日開催されたホクレン・ディスタンスチャレンジ網走大会で鈴木は5000m13分27秒83と駒大歴代記録を5秒更新。千歳大会に出場した田澤は暑さの中5000mに出場すると、ラスト1周まで日本選手権覇者の遠藤日向(住友電工)に食らいつきフィニッシュタイムは自己ベストとなる13分29秒91を指していた。

他の主力選手もシーズン開始直後の4月から自己ベストを更新してきている。花尾恭輔(2年)は5000mで13分51秒89を、10000mでは28分29秒82をマーク。佃康平(4年)は4月に5000mで13分59秒51と、これまでの記録を15秒ほど上回り、山野力(3年)も4月に10000mで28分32秒71をマークしている。

昨年箱根駅伝出場が叶わなかった唐澤拓海(2年)。4月には10000mでこれまでの自己ベストを1分以上更新する28分02秒52を、ホクレン・ディスタンスチャレンジ網走大会では5000m13分32秒58を記録した。唐澤は5000m、10000mともに学内ランキングで3位にランクイン。10000mの記録は駒大歴代5位である。唐澤は関東インカレ男子2部の10000mと5000mに出場し、どちらも日本人トップの成績を納めた。今年の駅伝シーズンは主力として活躍するだろう。

ルーキーの成長も著しい。特に篠原倖太朗は入部間もない4月初旬の5000mを14分12秒39でフィニッシュ。入学前のベストから20秒以上縮めたのだが、6月には13分55秒59とさらに記録を更新して13分台ランナーの仲間入りを果たした。ホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会では13分53秒92と更に記録を伸ばしている。

この勢いで駅伝シーズンに突入したら、駒大はとてつもない記録を叩き出すのではないだろうかと期待してしまう。そんなことを考えていたときにふと、大八木監督が箱根駅伝後の記者会見で語った言葉を思い出した。

「このチームからまた世界陸上やオリンピックにつながるような選手も育てていきたいという方向でやっていこうと思っています。三大駅伝と、日の丸をつける選手を育てるということが私の目標ですね」

駅伝シーズンの三冠はチームの大きな目標でありながらも、大八木監督の中では恐らく通過点なのだ。指導者が世界を見るから、選手も世界を目指し、強くなれるのだろう。

(「学生陸上スポットライト」野田しほり)