2018年の全国高校駅伝、福島県代表・学法石川高校の選手たちの腕には「最強世代をこえろ」と書かれていた。「最強世代」とは、2015年の全国高校駅伝に出場した阿部弘輝、田母神一喜、相澤晃、真船恭輔、小松力歩、遠藤日向、半澤黎斗らを指している。彼らの多くが今年最後の箱根駅伝を迎えた。

学法石川高校出身の4年生では、相澤晃(東洋大)、阿部弘輝(明大)、田母神一喜(中大)、真船恭輔(東京国際大)の4人がエントリーされた。田母神は箱根路を駆けることはできなかったが、相澤が2区、阿部と真船が7区に出走した。

東洋大・1区の西山和弥から2区相澤にたすきが渡った時、トップとの差は2分2秒。相澤は最初の5kmを14分11秒で飛ばし、中継所の地点で13秒先にタスキを受け取った東京国際大・伊藤達彦に5kmを過ぎたところで追いついた。伊藤は昨年3月に行われた学生ハーフマラソン、4月の関東私学六大学(3000m)、7月のユニバシアード(ハーフマラソン)と接戦を繰り広げてきた相手だ。何度もお互いに前に出ようとするが、その度に懸命に離されぬよう必死に食らいつき、勝負がついたのは20kmを過ぎたところだった。上り坂で相澤が伊藤を突き放し、その後も懸命に前を追って戸塚中継所に飛び込んだ。最後の箱根は花の2区で1時間5分57秒という大記録を残して幕を閉じた。この記録は2009年にM.J.モグス(山梨学院大)が樹立した区間記録1時間6分4秒を更新する快挙となる。15kmほど並走を続けた伊藤の存在があったからこその記録でもあるだろうが、最後に1秒をけずりだせたのはエースとしての、主将としてのプライドだっただろう。

翌3日、阿部と真船が7区で同級生対決を繰り広げた。阿部にたすきが渡った段階で、前を行く真船とはちょうど1分の差がついていた。阿部が真船に追いついたのは11km過ぎだった。阿部に追いつかれた真船は離されることなく並走するが、12kmを過ぎた地点で阿部が真船を離しにかかった。真船も懸命につこうとするが、差が開き両者共に単独走をすることとなった。

平塚中継所で阿部を待ち構えていた櫛田佳希(1年)も学法石川高等学校の出身であり、「最強世代をこえろ」と腕に書いて全国高校駅伝で力走を見せた選手である。平塚中継所で櫛田とタスキリレーをした阿部が叩き出した記録は1時間1分40秒だった。2018年に青学大・林奎介が樹立した区間記録1時間2分16秒を更新して、阿部が区間記録保持者として箱根路に名を残した。真船は11.6km地点の二宮を通過した際のタイムは9位だったが、最終的には1時間4分2秒の区間7位まで順位を上げる走りを見せた。

彼らが学法石川高校の3年生だった時、5000m13分台トリオ(遠藤、相澤、阿部)を軸に全国高校駅伝では注目のチームだった。しかし、本来の力を発揮できず、7位という結果に終わった。あの時感じたであろう悔しさから早4年。「最強世代」は誰もが認める最強世代として学生長距離界に名を残した。

最強世代の一角を担う相澤と阿部は幾度となく勝負を繰り広げられてきた。今回は両者ともに区間新記録を樹立する結果だった。二人の勝負はこれからさらに激しさを増すだろう。そして今回は出走が叶わなかった小松と田母神。6区山下りで区間19位と持ち味を発揮できなかった半澤。実業団で実力をつけている遠藤。彼らの活躍が待ち遠しい。

アスリートにとって最大の目標となるのがオリンピックだ。「最強世代」の彼らが更なる大輪の花を咲かせる舞台は今夏の東京五輪か、それとも2024年パリ五輪だろうか。

(「学生陸上スポットライト」野田しほり)