僕が初めてカーリングの現地観戦に行ったのは、2016年の2月に青森県で開催された日本選手権だから、およそ4年前のことになる。五輪が4年周期だから、この時の日本選手権もやはり五輪日本代表選考を兼ねる大会だった。

女子は、LS北見(現ロコ・ソラーレ)がチーム結成6年目にして初優勝。彼女たちの密なコミュニケーションが産み出す4人総意の結束したカーリングは、翌3月の世界選手権で日本初の準優勝という快挙を成し遂げる。今思えば、それはチーム青森や北海道銀行で女子カーリング界を牽引し続けた小笠原歩のチームから、主役が交代した瞬間だった。

男子はSC軽井沢クラブが予選から全勝で4連覇。後に平昌五輪で20年ぶりの五輪出場を果たすことになる両角友佑、公佑兄弟と山口剛史、清水徹郎のチームだ。大会最終日、午後の女子決勝から数時間後に行われた男子決勝は光景がまるで違っていた。埋まっていた客席からは人が一気に減り、立ち見客もぽつぽつ。ナイスショットやミスがあっても歓声やため息がほとんど聞こえない。1人の客の掛け声が聞き取れるほどにシーンとした静けさの中で試合が進む。女子決勝とはあまりに酷なほど対照的で、寂しい光景だった。

あれから約4年。昨年末の軽井沢国際カーリング選手権で見た光景は一変している。

予選1日目から、会場には多くの人が詰めかけた。昨年の大会も来場客は多かったが、今年はそれよりも多い。昨年は出場しなかったロコ・ソラーレが参戦したことや、Teamエディンをはじめとする海外チームの豪華な顔ぶれも影響しているだろう。入場待機場所には、次の試合を少しでもいい席で観ようとする客で長い列ができた。客席が埋まり、立ち見客も多い女子の人気は依然として男子を上回っていた。ただ、男子の試合でも目視する限りでは客席は結構埋まっていた。いいショットには歓声や拍手が起こり、鳴り物の応援も見受けられた。

SC軽井沢クラブのスキップ山口剛史は今の状況について次のように話してくれた。

「人が増えていっているというのはすごく嬉しい。五輪終わってからこんなに変わるとはあまり想像していなかった。五輪の凄さとか、特に女子がメダルを取って男女そろって出場できたことでここまで効果があるんだなと。今朝の女子の試合で、ずっと前からこの大会を見に来てくれている草津の人がいるんですけど、『すごい観客ですね』みたいな話になって。昔はポロポロしかいなくて、あとは小学生くらいしか見に来ないぐらいの大会だったんですけども。カーリングがこうやって認知されるようになって本当に嬉しいなと」

4年前から現地観戦している僕でさえ感慨深いのだから、それ以前からプレーしている選手や関係者、オールドファンはなおさらだろうと思う。

そして、観客の数だけでなく男子カーリング界全体のレベルもまた一変した。

現日本代表のコンサドーレ札幌は、「去年よりコンディションが良くない(松村雄太)」中で、予選から全勝で優勝。準決勝でツアーランクトップ5に名を連ねるTeamボッチャー(カナダ)、決勝で世界選手権2連覇中のTeamエディン(スウェーデン)を破っての優勝は価値がある。両角友佑が今年5月に結成したTM軽井沢は、準々決勝でTeamボッチャーに敗れたが、予選リーグではそのTeamボッチャーに快勝。チームの成熟度は「50%いくかいかないか(両角友佑)」という中でもポテンシャルの高さを見せた。山口剛史が新メンバーで結成したSC軽井沢クラブは、準々決勝でTeamエディンに敗れたが、予選リーグでは「カナダ遠征では同じくらいのランキング上位(20~30位あたり)に勝てなかった(山口)」というTeamカルバート(カナダ)に勝利し、平昌五輪金のTeamシュスター(アメリカ)に対しても5-6と好勝負をみせた。

プレーオフ(決勝トーナメント)以降の試合でも、テイクショットを狙ったショットがスルーしたり、ハウス内に石を留めることに失敗するような初歩的なミスが散見し、SC軽井沢クラブと他チームの間に歴然とした実力差があった4年前の日本選手権に比べれば、大きな進化だといえる。個々の選手のレベルアップに加え、平昌五輪後に解散したSC軽井沢クラブのメンバーが各チームに散らばったことで、現在の国内男子は高いレベルで複数のチームが切磋琢磨できる環境ができつつある。「今まではSC軽井沢クラブしか海外遠征に行ってなかったが、今シーズンは5チームくらいが海外遠征に行ったりとか変化が起きている(山口剛史)」と、より多くのチームがレベルアップを図れる状況も生まれてきた。

競技として長くカーリングを続けていくことは、僕が想像する以上に大変な道のりだと思う。特に女子選手に比べてバックアップ体制が整えられているチームが少ない男子選手はなおさらかもしれない。今大会優勝したコンサドーレ札幌でスキップを務める松村雄太でさえ、30歳までずっとカーリングを続けられている状況を、「ラッキーだった」と言う。

「僕はラッキーだなって単純に思っていて。支えてくれる人だったり、厳しい時にスポンサードしてくれる方であったり、現在の所属会社、前の所属会社だったり。そういう人たちの好意がすごくタイミング的によく受けられていたので、本当にただただラッキーでやれてきた。今結果が出て本当に良かったなと思ってますし、これ以上の結果で返していくことが一番なのかなと思ってます」

昨年10月にSC軽井沢クラブに加入したリードの大野福公(ふくひろ)は、「できることをコツコツと続けてきたことが今につながった」と話す。

「大学生の時は割と不自由なく時間もとれたので練習できていたんですけど、公務員時代は、社会人チームはみんなそうだと思うんですけど、仕事をしながらで中々練習時間の確保とか遠征にも充分にいけないという苦労があった。その中でできることをやっていこうと、何とか時間を見つけて練習したりトレーニングしたりということをコツコツ続けてきたのがつながっているのかなと思います」

ミックスダブルスや4人制のミックスダブルスでも日本代表経験を持っている大野は、北海道で市役所勤めをしていたが、「どうしてもカーリングで五輪に出たくて、あと山口とプレーができるということで」今年4月に正式に仕事を辞めて軽井沢で活動している。

複数のチームが高いレベルで切磋琢磨する環境がととのいつつある中で、女子からは遅ればせながらも男子カーリング界にも多くの観客の前で試合ができ、五輪という目標を持ってプレーできる選手が少しずつ増えている。

男子カーリング界に流れ始める好循環。まだ道半ばとはいえ、これほど嬉しいことはない。

(「ようこそ カーリングの世界へ」土手克幸 )