スポーツ選手には、競技に対して意欲を失い、燃え尽きたように消耗してしまうようなケースが起きることがあります。これをバーンアウト(燃え尽き症候群)と呼んでいますが、発症するプロセスが明らかになっています。

まず競技に「熱中」している期間があり、次に怪我やスランプ、力の限界など成績が伸び悩んで「停滞」する時期が訪れます。そこで目標の修正やトレーニング方法を変えてみたり、または他の競技や異なった活動を行ったりして目先を変えると、バーンアウトからは逃れることができます。しかし、ここで克服しようと「固執」してそのまま頑張り続けることがオーバートレーニング状態に陥ってしまうのです。努力をしても報われず、それでも焦りや無力感、自己否定を抱えながら以前と同様に練習を続けていることで心身ともに「消耗」。慢性疲労状態となり、競技意欲の低下につながっていきます。

バーンアウトの過程から見られる症状の側面として「競技に対する情緒(感情)的消耗感」「個人的成就感の低下」「チームメイトとのコミュニケーションの欠如」「競技への自己投入(関わり合い)の混乱」の4つがあるとされています。

バーンアウトにならないためには、上記でいえば「固執」してしまうことを避ける必要があります。この固執を生み出してしまう選手の特徴を挙げると、まずひとつに、競技において感じるプレッシャーを脅威と感じ、ストレスとして受け止めてしまう人の場合です。ストレスをうまく対処できず、高い要求・期待・目標であると感じつつもそのまま受け止めて頑張り続けます。そういった選手が成果として表れず報われない場合、固執が心身の消耗へとつながってしまいます。

また、選手の性格も特徴として挙げられます。生真面目、几帳面、完璧主義、他者への良心性といった人間性を持っている場合で、肯定的な評価をされる選手といっていいでしょう。しかしこれらの性格特徴は、「メランコリー親和型」や「執着気質」と言われ、うつ病を発症しやすい性格とも言われています。バーンアウトの症例には抑うつ反応も認められることから、バーンアウトとうつ病を同一視はできませんが、類似した点があることを覚えておいたほうが良いでしょう。人格的に模範となるような選手であっても、柔軟な対応に欠ける特徴があれば、「固執」しないよう周囲が注意をしておくべきです。

3つ目の特徴として、選手が競技のみをアイデンティティとしている場合です。分かりやすく言えば、行っている競技のみを自分自身のよりどころとしている場合になります。自分の行っているスポーツ活動が自分の存在基盤となり、存在価値であると認識すれば、達成感を得られている場合は心理的に安定できます。しかし伸び悩んで成績が停滞してしまった場合は、競技以外の選択肢がなく、新たな方向性が見つからないままとなります。そのため、活動が固執してしまう側面が出てくるのです。

バーンアウトへの予防や対処の方法は多くありませんが、記しておきます。まずバーンアウトはストレスによる部分が多いので、以前に紹介したメンタルトレーニングのひとつである、リラクセーション技法を行ってみると良いでしょう。また目標を設定しているのであれば、その目標を見直し、ストレスが軽減されるよう修正する必要もあります。

周囲のサポートも重要です。選手が固執している時期にあれば、サポートを受け入れてくれることが難しいかもしれません。消耗している状態でもサポートは難しいかもしれませんが、バーンアウトの抑制や緩和になります。症状が深刻であれば、専門医やカウンセラーに相談することも考える必要があるでしょう。

選手が競技を行っていれば、必ず成績が停滞する時期があります。したがって選手の持つ特徴によっては、バーンアウトは決して他人事とはなりません。停滞しても「固執」につながらないよう、指導者や周囲は注意して見守る必要があります。また選手は主体的に競技に取り組めるよう内発的動機づけを重視し、幅広い視野を持てるよう取り組むことが大事だと考えられます。

※『note』より加筆・修正。

(「パフォーマンスを上げるためのスポーツ心理学」松山林太郎 )