サイトウユウキ、ユウちゃん。この名を聞いてピンとくるのは、今や野球ファンだけだろうか? かつて甲子園のマウンドで青いハンカチを使って汗をぬぐう仕草から「ハンカチ王子」と呼ばれ国民的人気を誇った斎藤佑樹。齢31になる日本ハムの投手である。

もはや「あの人は今」的なハンカチ王子。今シーズンは一軍で11試合に登板し未勝利に終わったが、12月2日に年俸1600万円で契約を更改し、プロ10年目のシーズンへ首の皮がつながった。かつて夏の甲子園で投げ勝ったライバル、ヤンキースの田中将大の2019年の推定年俸は2200万ドル(約23億6000万円)、ずいぶんと差をつけられてしまった。1年目6勝6敗、2年目5勝8敗。2年目には開幕投手に抜擢され完投勝利を収めたが、これがピークだった? のか。以後の7シーズンで4勝しかしておらず、この2シーズンは未勝利に終わっている。30歳を過ぎて主戦場はファームのイースタンリーグ。平日のデーゲーム、パラパラの観客の前で高校卒業したての10代の選手にタイムリーを打たれ、本塁にバックアップに入る姿など憐憫の情を禁じ得ない。

スポーツ界では才能ある選手が集中する世代を、ゴールデンエイジと呼ぶが、野球界では、なかでも活躍した選手の名前をつけて、「○○世代」と呼ぶことがある。斎藤の生まれた1988~89年もいつのころからか「ハンカチ世代」と呼ばれるようになった。「斎藤世代」ではなく「ハンカチ世代」というのが面白いところ。言うまでもなく、優勝した3年夏の甲子園での、あのハンカチがネーミングの由来だ。

しかしこのハンカチを使う行為、ルール違反の疑いがある。公認野球規則8・02(b)には「投手が如何なる異物でも、身体につけたり、所持すること」とあり、違反した場合は「ただちに試合から除かれる」とある。例えばハンカチにオイルやクリームなどを染みこませておけば、ボールに通常は起こりえない変化をつけることができるからだ。

高野連ではバッティンググローブやサポーターの使用に関して事細かな制限を設けており、違反すれば審判から注意を受ける。にも関わらず、「ルール違反」がまかり通ったのは何故なのだろう? あまりにもさわやか過ぎるから、審判も見逃したのだろうか?

本人は「ハンカチのイメージを消したかった」と大学でも、プロでも、ハンカチを使用していない。しかし野球生命の瀬戸際に追い込まれたこの際、原点回帰の意味も込め、来シーズン、もし一軍のマウンドに立つのであればハンカチを使ってみるのはどうだろうか。活躍次第になるが、球団公式グッズとして青いハンカチが売れるなんてこともあるかもしれない。ただその時に審判がどういう対応をとるのかは注目である。

「ハンカチ世代」にはヤンキース田中の他、2019年セ・リーグMVP巨人の坂本勇人、ドジャースの前田健太、来シーズンのメジャー挑戦を表明している秋山翔吾などそうそうたる面々が揃う。「ハンカチ世代」と呼ばれることについて、かつて斎藤は「自分の名前は使わなくていいです。『田中世代』でいいんじゃないですかね」と言ったことがある。周囲が勝手につけた名称について、本人に感想を聞くのもちょっといじわるだが、そこは斎藤、優等生らしい受け答え。でもやっぱり「ハンカチ世代」で決まりでしょう。ハンカチで一世を風靡したユウちゃんがいてこそのこの世代。「田中世代」では、優秀な人材が集まる世代の名前としてはインパクトがなさ過ぎる。

(「屁理屈野球雑記」石川哲也)