単に「早慶戦」という場合、野球を指すことがほとんどだが、これは早慶戦が野球部の対抗から始まったからだ。

「早慶戦」の謎① 公共放送が両校の試合を生中継するワケ

この野球の早慶戦をきっかけに両校は私学の雄として何かと比較される、ライバル関係になったといっていい。早慶戦は野球だけに限らない。両校体育会各部による定期対抗戦は全て公式に「早慶戦」であり総合成績を出して、年ごとの「優勝」を争っているのだ。野球の勝敗は通算で早稲田が勝ち越しているが、近年は慶應が巻き返している。では、他の競技ではどうなのだろう?

「早慶戦」の謎② 両校の知られざる入学事情とスカウティング 

大学スポーツでは高い人気を誇るラグビー。黒と黄のジャージーから〝タイガー軍団〟と称される慶應「蹴球部」は日本初のラグビークラブとして1899年に創部した。1922年、創部間もない早稲田の「ラグビー蹴球部」が慶應に対戦を申し込んだことをきっかけに早慶戦が始まり、例年11月23日の勤労感謝の日に定期戦が行われている。このラグビー早慶戦も、野球の早慶戦と同様に関東大学ラグビー対抗戦グループの優勝争いと関係なく、公共放送によって生中継される。

ラグビー早慶戦開始当初10年は7勝2敗1分と日本ラグビーの始祖として慶應が貫禄を見せていたが、1930年代から形勢が逆転。2019年までの対戦成績は早稲田の69勝20敗7分となっている。先日行われた2019年ラグビー早慶戦も早稲田がやや苦戦しながら17対10で勝利し6戦全勝をキープした一方、慶應は2勝4敗と自力で大学選手権出場圏内の対抗戦4位までに入れなくなり、1998年度から続けてきた大学選手権出場が厳しくなった。慶應はここ20数年、上田昭夫監督時代の1996、97年と99年、2000年に2年続けて勝ったのが目立つくらい。2010年以来、早慶戦での勝利からは遠ざかっている。

同じくメジャースポーツのサッカーはどうか。英語の発音に忠実な慶應「ソッカー部」は、1921年創部、早稲田「ア式蹴球部」は1924年創部とともに長い伝統があり日本サッカー界に人材を輩出してきた。両校は関東大学サッカーリーグに所属しているが、リーグ戦での対戦とは別に1950年から早慶サッカー定期戦「早慶クラシコ」が行われている。対戦成績は早稲田の38勝14敗18分。過去10年も早稲田の8勝2敗、2012年から8連敗中だ。早稲田も2017年には2部落ちするなど盤石な体制ではないのだが、それでも慶應は勝ちきれていない。

団体競技ではなく、個人競技ではどうか。陸上競技部のことを両校では「競走部」と称し、毎年、「早慶対抗陸上競技大会」が開かれている。短中距離、跳躍、投擲の10種目が得点制で争われるが、通算成績は早稲田の73勝18敗2ノーゲームと大きく負け越している。両校ともに関東インカレの1部校であり、慶應にはリオ五輪4×100mリレー銀メダルメンバーの山縣亮太や、800m元日本記録保持者の横田真人などのOBも在籍していたのだが、直接対決になると選手層の厚い早稲田に太刀打ちできていない。

スポーツ科学部を有数る早稲田がスポーツ推薦制度を有するのに対し、慶應は表向きスポーツのみでの推薦はしていないことになっているので、メジャー競技に関してはスポーツ推薦の有無の差が現れるので仕方のない面もある。マイナー競技ではアメフトが40勝26敗1分、空手は44勝31敗1分(2018年まで)と慶應が通算成績で勝ち越している競技もある。少林寺拳法の対戦成績は8勝2敗(2018年まで)、ラクロス男子は15勝7敗4分、女子は20勝5敗1分など、早慶戦の歴史が浅い競技では慶應の方がいくらか分が良い。

ただ2010年から2018年までの早慶戦の全対戦成績を見ても、早稲田は勝率7割で程度で推移しており「完勝」といっていい。今年度よりスポーツ庁の肝いりで競技横断的統括組織「大学スポーツ協会(UNIVAS)」が発足したが、早稲田が積極的にその中心的役割を果たしているのに対し、慶應は参加を見合わせるなど、スポーツに対する両校当局の姿勢は対照的だ。これからもスポーツにおける早慶のライバル関係は続いていくのだろうが、その差はますます開いていくことになりそうだ。

(「屁理屈野球雑記」石川哲也)