出雲駅伝に出走した126名のうち1年生は14名。そのなかで2区を走った岸本大紀(青学大)が区間賞を獲得した。岸本以上の快走を見せたのが、3区を任された田澤廉(駒大)だろう。

田澤は青森山田高2年時に5000mで13分53秒61をマーク。3年時には岐阜で行われたアジア・ジュニア陸上競技選手権大会の5000mで銀メダルを獲得したランナーである。

駒大入学後は、5月の関東インカレでは2部5000mで7位入賞。田澤に先着した日本人選手は6位の浦野雄平(國學院大)だけだった。夏合宿を経て、三大駅伝が目前に迫った9月22日。日体大長距離競技会の5000mで13分41秒82という記録を叩き出す。一気に学内の5000mランキングは上級生を抑えてトップに立った。

そんな田澤がエントリーされたのはエースが集まる3区。学内トップの走力があるとはいえ、大八木弘明監督はどんな想いを込めて学生駅伝のデビュー戦で1年生にエース区間を託したのだろうか。

迎えた当日、出雲市の天気予報は曇りだったが、朝8時半にはポツポツと雨が降り始め、スタート直前まで路面を濡らし続けた。日差しが強く、気温も高かった昨年とは違い、太陽が雲に覆われた天候となった。

雨の影響かスタート前に集まる観客の出足は遅く、人が集まり始めたのはスタートの1時間ほど前だった。2区の終盤で再び降り始めた雨が降る中、3区の田澤は伊東颯汰から2番手でタスキを受け取った。

前を行く北海道学連選抜・宇野翔との差は11秒。3番手の國學院大とは1秒差、4番手の青学大とは2秒差。走り出してすぐに田澤は國學院大・浦野、青学大・吉田圭太に吸収される。走り始めて1kmになるあたりで宇野に追いつく。浦野が集団を引っ張り、田澤は前に出ることなくレースを進めた。残り1km地点で東洋大・相澤晃に追いつかれるも、集団は相澤を前に出さなかった。

レースが動いたのは残り500m。駒大のルーキーが上級生を相手に仕掛けた。その差は少しずつ開き、出雲路では4年ぶりに駒大がトップに立った。田澤は浦野と相澤に4秒差をつけて4区の小林歩にタスキを繋いだ。

相澤が従来の区間記録を25秒短縮する23分46秒で区間賞を獲得する。田澤は学生長距離界のエースとも称される相澤にこそ敵わなかったが、区間新の23分54秒で走破。浦野、吉田を抑えての区間2位だった。素晴らしい学生駅伝デビューになったと思う。

分厚い雲に隠れて、日中は太陽を見ることができなかった。それが一転、夜になると出雲市上空に満月が浮かんだ。田澤はどんな気持ちで神在月の満月を眺めたのだろうか。

土方英和、〝満月〟に続く日本インカレの快走

次なる戦いは11月3日の全日本大学駅伝。駒大のスーパールーキーは、今回の活躍で主力として注目を浴び、他校からもマークされることになるだろう。田澤は伊勢路でどんな走りを見せるのか。そして、4年生になる頃にはどのようなランナーに成長しているのだろうか。

(「学生陸上スポットライト」野田しほり )