日本インカレが開幕した9月12日。翌日が中秋の名月となることを感じさせる鮮やかな月が岐阜城の上に浮かんでいた。日が陰ってくると心地良い風が吹き込み、スタンドは観戦しやすいコンディションだった。気温は28度。男子5000mが始まる頃には風が止み、月も雲の向こうに隠れた。

土方英和(國學院大)はどんな想いでスタートラインに立ったのだろうか。今季に入り、大きな大会は日本インカレで3戦目となる。1戦目の兵庫リレーカーニバルは、ユニバーシアードの代表権をかけて1万mに出場。学生トップとなった西山和弥(東洋大)に20秒ほど差をつけられ、学生3位(総合9位)でフィニッシュしている。

その「敗戦」から1カ月後、関東インカレでは2部ハーフマラソンを1時間5分18秒で制した。1部ハーフマラソンで2位(日本人トップ)となった宮下隼人(東洋大)は1時間5分14秒、同3位の西田壮志(東海大)は1時間5分19秒。もし1部に土方が出場しても存在感を発揮しただろう。

9月の日本インカレでは夏合宿の成果を確認するためにも、目前に迫った駅伝シーズンに弾みをつけるためにも、結果を残しておきたいレースだったはずだ。

スタートの号砲が鳴ると、外国人選手と共にトップ集団を形成し、そのまま1000mを通過する。徐々に外国人選手がペースを上げて集団から離れた。外国人選手に食らいついたのは今井崇人(立命館大)だけだった。他の日本人選手は集団のままレースを進めていく。土方はまるで息を潜めているかのように集団の真ん中にポジションを取った。

土方は一体どこで仕掛けるのか──。レースが動いたのは残り1000mを切った頃。土方が集団から飛び出した。

残り1周に入る時、前を走るフィリップ・ムルワ(創価大)との差は約13秒。土方に続いた藤木宏太(國學院大)とは約3秒差。土方がフィニッシュした時に、ムルワとの差は9秒までに縮まり、藤木との差は4秒差ほどになっていた。土方はラスト1周で、ペースを3秒ほど上げたのだ。

28分47秒40の3位でゴールに飛び込んだ土方はすぐに後ろを振り返り、チームの後輩である藤木に声援を送った。藤木がフィニッシュすると二人で喜びをわかちあった。

関東インカレほど各校の主力は出場していなかったが、それでも土方にとって得たものは「全体3位・日本人トップ」だけではなかっただろう。また、日本人ワンツーでフィニッシュしたことは國學院大にとって意義のある結果になったはずだ。

学生三大駅伝の一つである出雲駅伝開幕まであと1カ月を切った。國學院大にとって、土方の世代が入学してから初めての出雲駅伝となる。優勝候補として挙げられる他校のエースたちは多ければ4度目の出場となり、勝手のわかった大会だけに國學院大にとっては不利になるかもしれない。それでも関東インカレ、日本インカレに続き、土方の活躍が期待される。

奇しくも出雲駅伝当日は満月である。月光は走り終えた土方を優しく照らし出すのだろうか。

(「学生陸上スポットライト」野田しほり )