前回までの記事で挙げてきた動機づけや達成目標の内容を踏まえ、目標を設定してみましょう。目標設定を行う上で押さえておきたい内容を5つ挙げます。

1.現実的で、挑戦的な目標
2.具体的な目標
3.結果の目標だけではなく、プレー(行動)の目標も
4.1~3を踏まえた短期目標と、長期目標
5.1~4を踏まえた目標を定期的に評価し、見直す

まず「現実的で、挑戦的な目標」を掲げましょう。目標は、高すぎても低すぎてもいけません。「目標は高く掲げたほうがいい」と思っている人もいるかと思いますが、現実的に不可能なほど高い目標を掲げても無意識に諦めてしまいますし、やる気や自信を持つことにもなりません。また自分の実力では簡単に到達してしまうような低い目標であっても同様で、チャレンジの気持ちは起きず、やる気と自信にはつながらないでしょう。

そこで、目標として設定する基準としては、もう少しの努力で到達できそうなくらいの目標を立てるといいでしょう。達成する確率が50%くらいの目標、あるいは自己記録の110%くらいを目標にし、何とか達成できそうだと目指せる程度が目安になります。

以前に「フロー(ゾーン)」の説明をしましたが、この適切な目標の程度がフローを体験できる最も重要な要素となります。自分の能力を適切に判断し、程よくチャレンジできるくらいの目標を設定しておくことで高いパフォーマンスを発揮することができ、フローをも体験できるかもしれません。

また、「具体的な目標」の設定も必要です。例えば「自己ベスト記録の6mを超える」や「毎試合ヒットを3本以上打つ」、「最低でもベスト4まで残る」といったように、数値を入れるなどして目標を具体的にするのです。個人の目標を作成する場合は、記録が出るような競技や、ゴルフ、野球、バスケットボールなど試合において数値として表面化されるものは具体性を出しやすいでしょう。最近ではスタッツとして自身のプレーが数値化されるケースが増えているので、目標設定の参考にしやすい値が出るかと思います。

が、それでもサッカーなどのように個人成績が数値として表されにくい競技もあります。そういった場合でも「毎試合味方の選手をうまく生かす」や「相手の嫌がるプレーをノーサイドまで続ける」など、より具体的な目標を立てられるよう工夫してみてください。具体的な目標を立てたほうが、漠然とした目標よりもターゲットが明確となります。それによって意欲が高まることを念頭に置いているのです。

上記の「現実的で挑戦的」かつ「具体的」な内容で、「結果の目標だけではなく、プレーの目標」を設定しましょう。〝結果目標〟とは「優勝する」や「ベスト8に残って全国大会に出場する」といったような、結果を重視した目標になります。前回の「自我目標」で説明したものと同様だと思っても結構です。こういった目標は、選手にとって目標設定を行う上で挙げやすいものだと思います。しかし結果目標は、相手との力関係など外発的な事象が影響するため、目標達成をする上でモチベーションや自信を得られない場合があります。たとえ相手に勝利して目標を達成したとしても、相手の調子が悪かったとしたら得るものは少ないこともあり得ます。また逆に相手のレベルが高すぎて敗北してしまったら、やる気を失ってしまうかもしれません。

そこで結果目標だけでなく、プレーについての目標となる〝行動目標〟を持つことも忘れないでください。行動目標は具体的な行動や競技内容を重視し、自分の競技能力を高める目標になります。

こちらも先述の「課題目標」と内容は同様になります。「ファーストサーブは必ず決める」や「失点につながるようなプレーミスをしない」といった内容のものを想像してみてください。外発的なものに影響されず、自らによって統制される目標になるので、結果目標とは別にやる気や自信を得られることがあります。勝利して結果が良かったとしても明確にプレーについての反省点を認識できることや、負けて結果が悪くても自分のプレーは悪くなかったと、必要以上にモチベーションを下げる必要がない場合もあるでしょう。結果目標はチームとしてや個人的なものとしてでも構いませんし、自分の能力に自信がなければ設定しなくても構いません。しかし、プレーの目標は個人的な目標として設定しましょう。

以上に挙げた「具体的」かつ「現実的で挑戦的」な「結果目標」と「プレー目標」を、「短期目標」として設定します。そしてその先にある大きな目標として、年間や数年後の目標になる「長期目標」を1つ設定しておきましょう。具体的な短期目標を達成していき、長期目標に向かっていくイメージを描くのです。長期目標については、達成したいものであれば何でも構いませんが、「具体的」かつ「現実的で挑戦的」なものであることは忘れないでください。

 最低限、図で記された目標を設定すれば良いでしょう。ただし、これを定期的に達成状況について評価する必要があります。「結果目標」や「プレー目標」が明らかに達成できそうにない目標になっているか、またはすでに目標を達成しているようであれば、目標を変更する必要があります。決して目標は初志貫徹する必要はないのです。変更する場合は再び具体的で、現実的、挑戦的な目標を設定し、適切なレベルのものを作成しましょう。

※『note』より加筆・修正。

(「パフォーマンスを上げるためのスポーツ心理学」松山林太郎 )