6月29日、日本選手権3000m障害決勝。観客の多くは前々日に行われた予選でドーハ世界選手権の参加標準記録を突破した塩尻和也(富士通)が優勝すると思っていただろう。しかし、トップでゴールしたのは大本命の塩尻ではなく、阪口竜平(東海大)だった。

阪口は予選2組を8分35秒85の自己ベストでトップ通過する。「優勝して世界陸上の標準を突破する」と公言していた決勝。スタートの号砲とともに飛び出した。先頭で淡々とレースを進める姿はほかの選手と闘っているのではなく、己自身と闘っているかのように感じさせた。

残り3周目に差し掛かる頃には阪口と塩尻が3位以下を引き離し、二人で抜きつ抜かれつのレースを展開した。ふたりは2000mを通過する頃には、後続に6秒ほどの差をつける。最終周の第3コーナーにある障害で塩尻が転倒し、阪口の優勝が決定的となった。

日本一の瞬間をどんな表情でフィニッシュするのかとカメラを向けて待ち構えたが、ゴールした阪口に笑顔はなかった。

ドーハ世界選手権の参加標準記録が 8分29秒00であるのに対し、優勝タイムは8分29秒85。その差は「0.85秒」。タイムを確認した阪口は頭を抱えて、目の前にあった障害に身を預けた。

勝者とは思えない表情をしていた阪口だが、打越雄允(大塚製薬)に声をかけられ、様々な感情が表に出たのか、少しホッとしたような顔をしたように観客席からは見えた。

その後、阪口は7月にイタリア・ナポリで開かれたユニバーシアード競技大会に出場。予選を8分49秒50のトップで通過するも、決勝は8分41秒64の6位に終わった。学生の大会とはいえ、世界で6位は十分な結果にも思えるが、阪口が狙った順位でもタイムでもなかった。

ドーハ世界選手権の参加標準記録の有効期限は9月6日。阪口は、「0.85秒」という差を埋めることができるのか──。

(「学生陸上スポットライト」 野田しほり )