都市対抗野球が今年も7月13日(土)から13日間の予定で行われている。「トシタイコー」と聞いても、野球好きでなければピンとこないかも。説明するのも非常にややこしい。社会人野球の日本一を決める大会は別に秋に行われる「社会人野球日本選手権」というのがあって、それとは別に日本の各都市を代表したチームが、日本一をかけて戦う。メジャーリーグが都市に根差したフランチャイズ制を採用しているのにヒントを得て発案された、現在のNPBの起源である職業野球の発足より前の1927年から行われている大会なのだ。

今回ご紹介するのは都市対抗のチケット半券。2008年第79回大会のチーム券だ。デザイン的にはアマチュア野球の常備券というのはどういうわけか、プロよりも小さいサイズが多いのだが、このチケットもサイズは一回り小さい。大会の象徴、獅子のエンブレムと、前年(2007年)橋戸賞(MVP)の東芝・磯村秀人の写真が入った、まとまったデザインだ。使用したのは決勝戦、2008年9月9日の新日本石油ENEOS対王子製紙の試合だ。

試合を振り返る前に、まず「チーム券」について説明したい。これは出場チームが主催の毎日新聞社から買い取ったチケットで応援に来た人に配布される。本来は出場するチーム、ほとんどは企業チームだからその社員や関係者、さらに都市対抗野球の精神に則り、出場都市の関係者などに、配られるのだ。

会場は東京ドーム。通常なら内野の一般の有料入場(特別席)は2600円、外野席でも1000円するのだが、チーム券を貰えばタダで応援席に入れる。しかも野球が見れるだけでなく、応援用のうちわ、選手一覧が貰えるのはマスト。チームによっては襟巻型の応援タオルや、弁当代ということなのか東京ドームで使用可能な1000円分の商品券が貰えたことがあった。

このチーム券については毎日新聞も日本野球連盟も詳細なアナウンスがなく、チーム関係者や、出場都市の関係者ではなく、応援を目的としている人が貰って入場できるのかどうか定かではない。もちろんタオルとか商品券とかいただいたりすると、気が咎めないこともないが、チーム券をもらった以上、うちわを叩いて、拍手もして応援するわけだし、これまで入場口で厳密な関係者審査があったこともない。スタンドに閑古鳥が鳴くよりはいいはずだ。
(※チームによっては関係者にしかチーム券を配らないケースもある)

チーム券を貰って東京ドームで都市対抗を見るためのポイントを以下、列記する。

1、関東以外のチームを選ぶ
関東のチームは社員、関係者を動員しやすい。JR東日本やNTT東日本、東京ガスなど関東のインフラ系のチームは外野席や2階席まで応援団が締めることがある。動員が多いと列を作って待つなど入場まで時間がかかるので絶対に避けた方がいい。

2、大企業は避ける
日本生命、パナソニックほかHONDA、三菱といった自動車会社などの大手大企業は拠点が東京以外でも動員力があり、チーム券を貰うのは気が咎めないこともない。某銀行など地方にあるので良さそうだとチーム券での入場を試みたが、散々待たされ、外野席での観戦になった(商品券貰ったが)。

3、土日より平日、3試合日の1試合目を狙う
動員しやすい日を避けるのはチーム券を貰う上でのマナー(?)。ベストは平日3試合日の第1試合、10時~。休日の14時~みたいな、チーム券を15000枚買ったチームに与えられる特定シード日は避けた方がいい。というわけでチーム券をいただいて入場するなら、関東以外で大企業チームでなく、平日に行われるチームが良い。

チーム券では好きな席に座ることはできず、入場した順番で応援席に着席していく。周りは背広の会社帰りや、待ち合わせた親子連れ、自作ボードをもったOLなど関係者ばかりになる。 聞き耳を立てると客席のあちこちで、「あ、もしもし。○○(子どもの名前)ママいる。代わって。ウン。…アッ、ママ。今日ね野球の応援だから。ウン。お弁当食べてるからゴハンいらない。9時過ぎには帰れるから」とか、「もしもし。○○(同僚)。今日来んの。ああ、あっそう。でも、ピッチャー良いから展開早そうだよ。時頃には終わっちゃうかもよ。先に一杯やってるから。着いたら連絡して」みたいな電話でのやり取りに出くわす。

都市対抗は野球の勝敗だけでなく、応援合戦も審査の対象なので、応援団も気合が入る。一応、都市対抗なので郷土色をアピールする。HONDAなら狭山なので、お茶缶の格好をした応援団がうろうろしたり、JX-ENEOSならエネゴリ君の着ぐるみが来たり、かつては東芝の応援に一社提供だったサザエさんの着ぐるみが登場したりしていた。

しかもプロ野球や高校野球とは違い、試合の進行に関係なく、鳴り物&スピーカーでガーガー応援し続ける。ベンチ上のステージには、チアリーダーが舞い、揃いのユニフォームの男子応援団が声を張り上げる、通路にも応援団が配置され、声を出すように促される。加えてスピーカーからは女性リーダーのハスキーボイスで応援歌をがなりたてる。

かつてHONDAの応援席で見た際など、

♪みなぎる闘志~
 勝利へ導く一打、オイ、オイ、オイ
 一球入魂、とどめはホームラン、カッセ、〇〇(選手名)!
 お前が打てば、勝利へ続く打線、オイ、オイ、オイ
 ホンダの攻撃は止まらない~
 ウォー、レッツゴー、ウォー、レッツゴー

(この応援歌にも今、話題の「お前」が入っているが、それはさておき)
帰って床についたら、このホンダの「フルスロットル」という応援歌が耳からはなれなかった。

また動員されている応援団の皆さんも、ボランタリーで応援してるプロ野球などとは違い、金払って通ってる学校を応援する学生野球とも異なり、働いて金をもらってる自分の人生の一部である会社ということで、応援の仕方、結果への対応が明らかに違う。ショボイ内野安打でも、四球でも、親族が金メダルをとったときのような喜びよう。つられてうちわを振って、歌を歌ってしまう。かつてコストカッターのゴーンさんが日産野球部の都市対抗の応援を見て、グループの一体感を守るため野球部の存続を決めたのにも納得した(結局、廃部したが)。で、今回のチケットの試合。

2008年9月9日 第79回都市対抗野球決勝 東京ドーム
新日本石油ENEOS(横浜市) 300 000 100…4
王子製紙(春日井市) 010 000 000…1
(新日本)清見、廣瀬、○田澤ー山岡
(王子)●蓬莱、小町、奥村、児玉ー川上

※決勝の新日本石油ENEOS対王子製紙、否、横浜市対春日井市をチーム券をいただきENEOS=横浜市側で観戦した。

  

始球式は、なんと白鵬と「日本一決定戦」らしい人選。BSの生中継も入っており、CMでおなじみエネゴリ君も登場し、応援は盛り上がった。大企業らしいさすがの動員力で、ゲーム中盤には2階席もあき応援団が陣取った。8回からはこの年の秋のNPBのドラフトを拒否し、レッドソックスと契約すると噂されていた田沢純一が登板した。2回2/3を投げ、無安打無失点、4奪三振。先発して6回を投げた前日からの連投ながら、力のあるところを見せた。ただ実際に見た印象としては、あまり力感が感じられず、この投手がメジャーリーグに行くのかと思ったのを覚えている。結局、ENEOS=横浜市が優勝。元近鉄で大東めぐみのダンナ、現慶応大学監督の大久保秀昭監督はこの大会が指導者として都市対抗初優勝。優勝インタビューでは思わず男泣きしていた。

都市対抗は「真夏の球宴」と称され親しまれている、と主催新聞社は言う。しかしこの半券の試合の当時すでに関係者による、関係者のための大会になっていた。高校野球の都道府県予選の結果を気にする人は多くいるが、自分都市の代表チームが都市対抗で勝ったのかどうか、気にする人は皆無だろう。都市対抗という理念は悪くない。どうにかこの大会にテコ入れし、地方における野球の感心拡大につなげられないのかと考えてしまう。

(「プロ野球半券ノスタルジア」石川哲也 )