目の前のプレーに集中したいのであれば、過去や未来について考えていてはいけません。あれこれと考えてしまうことが、集中を妨げてしまうからです。「あのときの判断は違ったな」とか「ここで点を決めないと負けてしまう」といったような、過去や未来について試合中に考えたことはないでしょうか。

勝負するべきときには目の前にある状況を考慮したプレーに注意を向け、「今、ここ」について考えるべきなのです。

この「今、ここ」に集中するための訓練法として〝マインドフルネス〟という瞑想法があります。「瞑想」と聞くと、何やら宗教的なものを感じて敬遠する人もいるのではないかと思いますが、マインドフルネスは宗教色を排除して考案された瞑想法で、現在多くの研究が進められています。

マインドフルネスとは「今、ここに注意を向け、現実をあるがままに受け入れる状態」のことを言います。その効果は、集中力を養うほか、リラクセーションの効果も認められています。そのほか不安感情を解消させることで抑うつの心理的治療としても使われるなど多くの効果が認められており、国内外のトップアスリートや、スポーツに関わらず外国の大手企業でも導入して社員向けに実践されています。初心者にとっては最初の取り掛かりが難しいように感じるかもしれませんが、集中力を身につけ、かつ不安感情と距離を置いてリラックスできる手法ですので、試してみてほしいと思います。

手法自体は難しくありません。さまざまな方法が書籍や指導者によって紹介されていますが、ここではその一例を紹介します。

1.静かな場所で背筋を伸ばして座り(あぐらでも、椅子を使用しても大丈夫です)、目を閉じる。
2.何も考えずに呼吸だけに集中し、呼吸によって動くおなかの「ふくらみ」と「縮み」を心の中で感じながら、ひたすら注意を向け続ける。
3.やがて集中が続かずふとほかのことを考えてしまうので、それに気づいたら再び呼吸に注意を向け直す。

主に行うことは、これを地味に続けるだけです。これを10~15分行えば良いでしょう。呼吸に自らが注意を向け続ける行為は、集中力の訓練になります。集中することの難しさを実感すると思いますが、だからといって呼吸に集中が続かなかったと、ネガティブな感情を持つ必要はありません。たとえ雑念が生じてもそのネガティブな感情に向き合うのではなく、その感情を脇に置いて受け止め、再び「今、ここ」だけに集中するよう呼吸に注意を向ければ良いのです。

このネガティブな感情から距離を置くことは、不安感情などのマイナス思考を低減させる効果があると言われています。浮かんだ感情について真正面から向き合わずに、評価や判断をしないことが、マイナス思考の影響を下げるためのスキルを身につけることになるのです。不安感情に対峙しようとしないことによって心がリラックスし、過度な緊張を生まないことにもつながっていくと考えられます。

ただ、マインドフルネス瞑想の手法は簡単ですが、継続して習慣づけることで効果を感じられるようになるでしょう。少し行っただけでは効果を得ることができません。興味を持ったら「夕食後」や「寝る前」などのように、習慣づけやすくなるよう開始時間を決めて自分で行ってみることをお勧めします。またはチームなど大人数でトレーニングとして行うことが、継続させられるきっかけにもなるでしょう。

※『note』より加筆・修正。

(「パフォーマンスを上げるためのスポーツ心理学」松山林太郎 )