「ゾーンに入っていた」など、スポーツシーンで〝ゾーン〟という現象があるのを聞いたことはないでしょうか。これは試合に集中して、プレー以外の事象がまったく意識されないほど没頭している状態に入っている感覚のことです。

このゾーンは、スポーツ心理学ではプレーの意識が次から次へと「流れ」ていくといった意味合いから、〝フロー〟という呼び方が一般的になされています。

フローを体験すると、その競技活動を継続し、集中して行うようになることが検証されています。またポジティブな人格を作り、幸福な状態を作れるようになることも実証されてきています。さらには高いレベルで挑戦することを楽しみ、個人の能力を高めることができるとも言われています。フロー体験は快楽ではなく、モチベーションを高め、充足感を導いてくれる現象です。スポーツを行っている人であれば、極限まで集中した状態になるフローを体験してみたくはないでしょうか。

フローはどのような条件があって生じるのかを説明しましょう。まずは自分の能力を認識し、その能力水準に対して適度に困難な課題に挑戦できるような目標を作っておきます。この、自身の能力を伸ばそうと目標に向かって挑戦できる状況を作っておくことが、フローを生み出す条件になります。

〝目標設定〟については別の機会で詳しく説明しますが、自分が何とか達成できるだろうという適切な目標を設定し、挑んでみましょう。挑戦する課題と、個人の能力が釣り合っていることが重要なのです。

たとえば野球であれば、単打しか打てない人は二塁打を目標とする。外野までボールを飛ばせるようになったらホームランを狙う。少しのプラスアルファで可能となりそうな目標に向けて努力を重ねるわけです。

それによってその競技活動自体が楽しくなり、強い集中によってプレーとは関係のない意識が消え、次から次へとプレーへの意識が流れるようなフロー状態となれます。そして能力が向上すれば、また新たな目標を設定し直して挑み、逆に目標が高すぎるようであれば少しレベルを下げて自身の能力で挑めるよう修正すれば良いのです。

フローを体験することが、競技そのものに喜びや楽しさを見つけることができ、再びフロー体験が生じるよう活動するようになるでしょう。そして、新しい挑戦を行うことで自分を開拓していこうというポジティブな感情が生み出されていきます。

※『note』より加筆・修正。

(「パフォーマンスを上げるためのスポーツ心理学」松山林太郎 )