集中して取り組みたい――。誰しもそんな思いがあるはずです。集中力を欠いたことが原因で得点を奪われるケースや、ゲームが終盤になるにつれて注意が散漫になり、プレーの精度が落ちてしまうようなケースもあるかと思います。これを克服するために、集中力を身につけたいという思いがあるでしょう。

この集中というのは、まず視覚や聴覚などの五感から「感覚」を受け、「知覚」として認識します。そのさまざまに受けた知覚から選択して「注意」を向けて意識し、「集中」していくという過程があります。注意する視点がプレーなど適切な方向に向けて意識されていると、「集中している」ということになるのです。

例えばサッカーのセットプレーで守備をしている場合、相手のキッカーや自分がマークにつく相手の動き、危険なスペースを予測するなど、注意を向けなければならないさまざまなポイントがあります。しかし、相手の汚いプレーにいら立ってその相手ばかりに意識が向いていたり、体力が消耗して向けなければならない注意点に頭が回らないなど、意識を向けるべき方向への注意がなされていない場合も少なくありません。

集中できている状態だと対面する相手の動きを読んで攻撃を防ぎ、カバーリングにも対応できるような冷静な状況判断ができ、正しいプレーを選択した動きができるのです。

そのように状況によって正しく注意を向けて集中するためには、注意をする方向に4つのタイプがあることを知っておく必要があります。それが次の4つです。

・広く外的な注意
・広く内的な注意
・狭く内的な注意
・狭く外的な注意

まず「広く外的な注意」とは、自分の周囲環境に存在するさまざまなものへの注意です。試合会場の天候や観客といった、自分自身以外で広範囲に意識するものを想像してみるといいと思います。

「広く内的な注意」とは、自分自身が持っている記憶や経験から判断して、試合の流れや作戦に注意することです。

「狭く内的な注意」とは、自分の体やコンディション、フォーム、イメージについての注意です。具体的には疲労度や筋肉、プレーの良いイメージを想像するといった、自分自身の直接的な身体や動作に関するものを対象としているものになります。

最後の「狭く外的な注意」は、自分以外の環境にある一つの対象にすべての注意を向けることです。ボールを使う競技であれば、注意の対象物としてボールにだけ意識を向けるといったイメージになります。

「広く」と「狭く」は、注意を向ける対象が遠いものか近いものかの違いになり、「外的」と「内的」は、自分の身体外か身体内の違いになると考えれば分かりやすいかと思います。

先ほど挙げたサッカーのセットプレーで、守備側の選手が集中しなければならない4つの注意方向を当てはめてみましょう。

「広く外的な注意」を行う場合は、まずピッチ上の風の強さや方向。また味方の選手がどの位置で守り、どの相手の選手をマークしているのか、または空いたスペースを確認しておくことが挙げられます。

「広く内的な注意」を行う場合は、相手のキックからどの位置にボールが放り込まれるか、そのほか相手選手がどのように動いてくるか、直接ゴールを狙ってくるかなど、数ある選択肢を予測しておくことです。

「狭く内的な注意」を行うのであれば、相対する選手に競り負けないようにジャンプのタイミングや体の当て方をイメージしておくことになります。

そして「狭く外的な注意」を行う際は、キッカーやボール、もしくはマンマークする相手から目を離さず、それらに集中して注意を向けることです。

これら4つの注意を向ける方向は、どれも大切です。どれかに集中が欠けていれば、それが原因となって失点してしまう恐れがあります。また集中をしていても、4つのうちのどれかに偏っていると、ほかのおろそかになった注意の方向を突かれ、失点することにもなります。

「広く外的な注意」を怠り、空いたスペースを突かれてしまう。
「広く内的な注意」を怠り、相手の動きを予測できずに相手の思い通りにプレーされてしまう。
「狭く内的な注意」を怠り、自分の思うようなフィジカル・プレーができずに終わってしまう。
「狭く外的な注意」を怠り、相手にマークを外されて失点してしまう。

こういった事態にならないよう、重視する注意方向を適切に見極め、また注意する方向を上手に配分して臨むことが重要です。それによって集中したプレーができるのです。

この注意を向ける4方向は、ほかのどの競技においても当てはまるケースがあると思います。自身が行っている競技でこの4方向のシーンを描き出し、重視する注意方向の見極めと、配分する注意の量を考えてみてください。

※『note』より加筆・修正。

(「パフォーマンスを上げるためのスポーツ心理学」松山林太郎 )