今シーズンのカーリングは、北京で開催される(5月8日~12日)のカーリング・ワールドカップグランドファイナルを残すのみ。そこで、僕の独断と偏見で選んだ今シーズンのベストショットを男女ともに1つずつ紹介させていただこうと思う。今回は女子編だ。

女子/アリーナ・ペーツ(スイス代表・フォース)のダブルテイクアウト&絶妙ロール
(世界選手権決勝スウェーデン戦、第9エンド)

スイスが3年ぶりの優勝を果たした世界選手権。その中でも、平昌五輪金メダルチームで今大会の優勝候補大本命に推されていたスウェーデンとの決勝戦は、エキストラエンドまでもつれ込み、世界最高峰を決めるにふさわしい好ゲームとなった。

スイスにとって、この試合最大のピンチは6対6の同点で迎えた第9エンド。サードまでが投げ終えて、両チームとも残り2投ずつとなったところで、ハウスの状況は下図のようになった(赤がスウェーデン、黄がスイス)。ハウス内に石が4つあり、ナンバー1、2、3までがスウェーデンの石。有利な後攻はスウェーデンだ。

第9エンドのスイスの狙いは、スウェーデンに1点だけ取らせること。そうすれば、1点差で第10エンドに有利な後攻を迎えることができ、逆転の可能性が拡がる。しかし、この場面では、仮にダブルテイクアウトに成功しスウェーデンの石を2つ出せたとしても、後攻のスウェーデンがダブルされにくい場所に石を置けば2点パターンが残る。形勢は一気にスウェーデン。そこで飛び出したスーパーショットがこちらだ。

アリーナ・ペーツがデリバリーした石は、スウェーデンのナンバー1、2をテイクアウトし、3失点のピンチを防ぐことに成功する。この時点でナイスショットなのだが、スーパーなのはテイクアウト後に石がロールした場所。スウェーデンの石に重なりつつ、なおかつナンバー1で残っている。これが絶妙だった!!

仮に、スイスの石が丸見えの場所に止まっていれば、スウェーデンは次のショットでこの石をヒットして、自分の石をハウス内に留めればいい。また、スイスの石がもう少し外までロールしてスウェーデンの石がナンバー1のままならば、この石に構わず2点目になる石をハウス内に作ればよかった。しかし、このスーパーロールによって、スウェーデンは残っている自分の石に当ててスイスの石を押し出すだけでなく、投げた石は内側にロールさせて残っている石との距離を作り、残っていた自分の石は時計の10時方向にあるスイスの石よりも内側に留めるというタフなショットを強いられてしまった。結局、スウェーデンはそのタフショットに失敗。アリーナ・ペーツの1投は、窮地に追いやられたスイスを救うキーショットだった。

ちなみに、この試合のアリーナ・ペーツのショット成功率は驚異の94%!! 今シーズンから現チームに加入した彼女は、2015年札幌開催の世界選手権でスイスが優勝した時のスキップでもある。元チャンピオンスキップの高い集中力と大舞台での経験。それはスウェーデンにとって一番の誤算だったのかもしれない。

(「ようこそ カーリングの世界へ」土手克幸 )