僕の独断と偏見で今シーズンのベストショットを紹介させていただく。女子に続いて、今回は男子編だ。

スーパーショットを独自解説 今シーズンのナンバー1はこれだ!【女子編】

男子/ジョン・シュスター(アメリカ)と萩原諒(軽井沢WILE)が魅せたスーパーショットの応酬
(軽井沢国際カーリング選手権プレーオフ準々決勝、最終第8エンド)

男子は昨年の12月末に行われた軽井沢国際カーリング選手権の名勝負から選ばせていただいた。僕自身がこの会場にいたこともあり印象が強いというのもあるが、両チームのスキップがスーパーショットにスーパーショットで応えたという部分を考えると、男女通じてナンバー1の名場面だ。

アメリカチームは、平昌五輪で金メダルを獲得した世界の強豪チームで、この大会も予選1位でプレーオフに進出。予選8位でプレーオフに滑りこんだ軽井沢WILEは、2016、2017年の日本選手権でベスト4に入るなど国内では名の通った強豪チームの1つ。実績で上回るアメリカチームが有利と思われた試合は、第7エンドを終えて軽井沢WILEが5-3と2点リード。国内の強豪が世界の強豪を追い込んで、勝負の最終第8エンドに突入した。

第8エンドは、軽井沢WILEのミスを突いて、後攻のアメリカチームが有利に進める。両チームのスキップのラストショットを残した時点で、ハウス内の状況は下図のようになった(赤がアメリカ、黄が軽井沢WILE)。

ハウス内にはアメリカの石だけが3つ残っている。平行に近く並んだ石はダブルテイクアウトの角度がないため、1投でアメリカの石を2つ出すのはほぼ不可能。ナンバー1のアメリカの石に一直線にくっつけるフリーズというショットが決まれば、アメリカは軽井沢WILEの石を出すのがほぼ不可能になるのだが、わずかでもズレたり距離が開けばアメリカに出されてしまうためリスクが大きい。しかし、この追い込まれた状況から軽井沢WILEのスキップ荻原諒がスーパーショットをお見舞いする。

まず、アメリカのナンバー1の石をテイクアウト。そして、投げた石はアメリカのナンバー3の石を外に押してその場に残ったのだ。僕を含め記者席で座っていた人たちが思わず立ち上がった。アメリカチームがこの軽井沢WILEの石を出すためには、前にくっついている自分の石を押せばいいのだが、これがなかなか悩ましい。

考えられる選択肢は、カムアラウンドで前のガードストーンをかわして自分の石を押すか、ランバックと呼ばれるショットで前のガードストーンを飛ばして自分の石に当てて押し出すかの2つ。カムアラウンドはガードストーンを回り込むだけの曲がりを確保するぶん強い石が投げられず、軽井沢WILEの石をハウスから出し切れずに2点止まりになる公算が高い。ランバックはうまく決まれば軽井沢WILEの石をハウスから出し切ることができるが、ガードストーンとハウス内の石の距離がかなりあるため、少しでも当てる角度がズレてしまうとジエンド。今度はアメリカチームが追い込まれた。しかし、さすがは五輪金メダリストの意地か。ジョン・シュスターがこの難局を見事に切り抜ける。

ジョン・シュスターは迷うことなくランバックを選択。飛ばしたガードストーンは美しい軌道を描いて、狙い通りにハウス内の自分の石をヒットしその場に留まり、軽井沢WILEの石をダルマ落としのようにハウスからストンと打ち抜いて3点ショットを決めた。記者席からは感嘆の声が上がり、観客席からは大きな歓声が上がった。決めたジョン・シュスターも見事だが、それを引き出したのは間違いなく萩原諒のスーパーショットだった。

軽井沢WILEが昨年末に解散してしまったのは少し残念だが、カーリングファンに鮮烈な印象を残すことができたのではないだろうか。そして、何よりも嬉しいのは素晴らしいこの戦いが日本で、自由席1,500円、立見なら1,000円で観戦ができること。今年のクリスマスシーズンは、ぜひ軽井沢でカーリング観戦を楽しんではいかがだろうか。

(「ようこそ カーリングの世界へ」土手克幸 )