●キューワード(切り替えの「合図になる言葉」を発する)
緊張しているときには自分でキューワードを作っておけば、気持ちを安定させることができます。落ち着かせるために「リラックスしよう」や「良いプレーができている」といったようなキーワードを思い浮かべたり、独り言で発してみたりするのです。野球中継で選手が独り言を口にしている場面を目にすることがありますが、自分が安心できるような「合図になる言葉」を持っておき、その言葉を口にすることで反射的に緊張がほぐれていくことを意図としています。

サイキングアップ(気持ちを盛り上げる)
今までのメンタルトレーニングでは、過緊張を修正するための方法を説明してきましたが、緊張感が上がらず気分が乗らない、または競技に集中できない、諦めてしまっているような場合には、適度に緊張感を上げるためにサイキングアップを行って気持ちを盛り上げる必要があります。気合を入れるために大声を出したり、顔や足を叩いたり、円陣を組んで士気を上げたりしているのをよく見かけますが、これらはサイキングアップを行っていると考えてよいでしょう。

そのほかに緊張感を上げる方法を挙げると、意図的に短く速い呼吸を繰り返す方法があります。これによって緊張レベルを高め、眠っていたやる気を覚醒させます。また、先にリラックスするために「キューワード」が効果的であることを説明しましたが、サイキングアップにおいてもキューワードは有効です。自分のテンションが上がるような言葉を意識しておき、それを独り言で言葉に発することも推奨されています。「できる!」など、自分自身で気合の入る言葉をあらかじめ考えておくといいと思います。

●プレッシャーの中での練習
試合の緊張感を生み出せるよう、練習の段階からプレッシャーをかけて取り組むことで、緊張に対応できるようにすることができます。試合慣れをするために数多くの練習試合を行ったり記録会に出場したりはできますが、それでも緊張感を持った実戦が経験できる機会は限られています。そこでなるべく実戦の雰囲気を経験できるよう、練習の段階からプレッシャーを感じる空気づくりをしておくのです。

たとえば野球のノックで「全員がエラーをせず、ホームに捕りやすいボールを送球して終わり」とする練習を行っているチームがありますが、これは緊張感を取り入れた練習の具体例になります。エラーが続くといつまでも練習が終わらないので、ほどよい緊張感が得られることが主眼になっています。

「練習は試合のように、試合は練習のように」と言われるよう活動しているチームもあるかと思います。普段の練習では厳しさがあるけれど、試合ではなるべくプレッシャーを与えずのびのびと臨むスタンスです。これによって試合で受けるプレッシャーにも慣れていくでしょう。

元々緊張しやすい場合や、本番でどうしても力をうまく発揮できないようなケースがあるかと思います。しかし、このように練習からプレッシャーを感じていれば、緊張を克服する訓練にもなります。練習を重ねることで、自分の能力を最大限に発揮させることができるようになっていくのです。

また、本番で受けるプレッシャーに対応する能力を磨くこともできます。

たとえば、サッカーで2点差をつけて試合を進めていたものの、相手に1点返されるとそこから点差を維持させたいにもかかわらず試合を優位に進めることができず、受け身に回るようなシーンを見たことがないでしょうか。ほかにもバレーボールやテニス、バドミントンと、どのような競技においてもあてはまるケースがあると思いますが、試合を優勢に進めながらも追い上げられて流れを徐々に悪くするような場面を想像してみてください。

そういった状況や判断も、プレッシャーをかけた練習により経験しておくことで試合慣れした選手へと成長していけるのです。

こういったケースでは、プレッシャーを脅威に感じるのではなく、挑戦的に行動しようと心を入れ替えれば良いとされています。経験や先入観などによって形成される思考や思い込みを〝マインドセット〟と言いますが、脅威に感じてしまうマインドセットを変化させて挑戦する状況を作っていくのです。自らプレッシャーによって悪い流れを作ってしまう状態になるのを、挑戦的な思考を保てるよう練習から訓練し、試合中に適切な状況判断ができるような選手になっていければいいでしょう。

※『note』より加筆・修正。

(「パフォーマンスを上げるためのスポーツ心理学」松山林太郎 )