○クアイエットアイ
緊張で「あがった」場合の対処法として前回紹介したリラクセーション技法の別の方法となる、クアイエットアイを今回は紹介します。

これはプレー開始前にターゲットとするある1点を注視する方法で、プレー中に心を落ち着かせるのに有効です。バスケットボールのフリースロー前にリングの1点を注視する、またはゴルフのパターを打つ前にカップの1点を注視する、といったような例を想像してもらえれば分かりやすいかもしれません。

このクアイエットアイは、競技初心者ほど注視点がさまざまな点に置かれていて、熟練者の場合はある1点を注視して行われている違いが実際にあります。またバスケのフリースローにおいて、クアイエットアイの時間が短い方が成功率は下がる結果となり、さらにはプレッシャーがかかる場面になるにつれてクアイエットアイの時間はより短くなっているということも研究結果として報告されています。

余計なことを考えず注視した点に意識を集中することでプレーの自動化が保たれ、緊張した場面でもパフォーマンスが維持されて自分のプレーができるのです。プレー中に時間の制約があるなど、クアイエットアイを行うには難しいケースがあるかもしれませんが、注視時間が確保できるのであれば可能な限り1点に集中してみるといいかと思います。さまざまな競技で想定し、応用してみてください。

○ルーティン
クアイエットアイと同様、あるプレーを行う直前に心を落ち着かせることに特定すれば、「ルーティン」という、考えや行動をパターン化させる方法もあります。野球でバッターボックスに立ってからの一連の動作が選手それぞれにある例や、ラグビーにおいてのプレースキックを蹴る前の決まった動きを想像すれば、イメージが湧きやすいでしょう。

練習の段階から自分のルーティンを作っていき、試合でも同じ一連の順序で動作を行うことで動きに集中でき、あがることを抑えられます。また焦りがあったり自分のペースでゲームが進んでいなかったりすると、プレーの質は下がってしまいます。ですが、ルーティンを途中で挟むことで、一度冷静さを取り戻すことができ、あがりからの悪い流れを取り戻すことができるはずです。

このルーティンを構築するには、〝ファイブステップ・アプローチ〟という5つの段階を踏まえることが提唱されています。

1.準備
2.イメージ
3.1点に注意を向けて、集中
4.静かな心で実行
5.評価

まず身体や、自信・期待・感情といった心の状態を整える「準備」をしながら、自身がしっくりくるよう考案した一定の動作を行います。そして、プレーが成功する「イメージ」をします。ここの「イメージ」では、「準備」の段階と同時進行で行うと考えてください。次に、ターゲットとする「1点に注意を向け、集中」します。そのターゲットへの意識を保ちながら「静かな心で実行」します。プレーの実行後には、動作やパフォーマンスの質の「評価」を行います。この評価を次のプレーに生かし、再び「準備」の段階へとつなげていきます。

野球でバッターボックスに立ったら、自身のルーティンでユニフォームを引っ張ったりバットを回したりしながら「準備」をし、「イメージ」を作って構えます。そしてピッチャーの顔にじっと「注意を向け、集中」し、「静かな心で」スイングを行い、その打撃後に「評価」を自分で振り返って次の打席に再び生かす――このような例を想像してもらえれば分かりやすいかと思います。

※『note』より加筆・修正。

(「パフォーマンスを上げるためのスポーツ心理学」松山林太郎 )