私事ではあるが、2月に札幌で開催された第36回全農日本カーリング選手権は、取材申請をしたもののご丁寧にお断りのFAXをいただき、テレビ観戦を余儀なくされた。さすがは日本選手権、テレビや新聞をはじめとする主要メディアが大挙して押し寄せれば、実績の乏しいライターに席はない。文句を言うつもりもない。ある程度予想していたことではある。現地での試合観戦も考えてはみたが、今年の日本選手権は予選リーグから有料となり、チケット代も高くなった。札幌までの交通費や滞在費用も考えると、予算的に苦しい台所事情。取材費用で大赤字が出てしまう駆け出し貧乏ライターの泣き所ではある。

これ以上泣き言をいっても始まらないから、そろそろ日本選手権を振り返ろう。今シーズンの日本選手権は、女子が中部電力、男子はコンサドーレが優勝し、それぞれ世界選手権の出場権を獲得。その中で、今回は女子優勝の中部電力を取り上げてみようと思う。

4強(ロコ・ソラーレ、北海道銀行、中部電力、富士急)による優勝争いと見られた今大会、中部電力は予選リーグから無敗の全勝優勝。特に平昌五輪銅メダルのロコ・ソラーレに対して予選リーグ、プレーオフ初戦、決勝戦と3勝する見事な快勝劇を見せた。昨シーズンは、ロコ・ソラーレとの平昌五輪代表決定戦で敗れ、世界選手権出場を賭けた日本選手権も予選1位通過ながら準決勝で富士急に敗退。昨シーズン一番悔しいシーズンを過ごした中部電力の快勝劇から浮かび上がってきたのは、今シーズンの大胆な変化と個々の進化だ。

見事にハマったポジションとスキップの変更

中部電力は、昨シーズンまでキャプテンを務めていた清水絵美が引退し、今シーズンからマネージャーとしてチームのサポートに回ることになった(今大会はフィフスとしてチームに帯同)。そして、残った4人のチーム編成も大きく変えてきた。

昨シーズン: 石郷岡葉純→中嶋星奈→北澤育恵(バイススキップ)→松村千秋(スキップ)
今シーズン: 石郷岡葉純→中嶋星奈(スキップ)→松村千秋→北澤育恵(バイススキップ)
※バイススキップ……スキップが投げる時に、ハウスからの指示を担当する役目。

北澤と松村のポジションが入れ替り、スキップが松村から中嶋に変更。石郷岡以外の選手が昨シーズンと違う役割を担うことになる。最後を投げるフォースはプレッシャーのかかるポジションであり、スキップはチームの作戦を組み立てる司令塔。その2つが一気に変わるというのは相当大きなチャレンジだ。

果たして、この変化は見事にハマった。まず、松村がスキップを交替してスイーパーに加わることで、元々彼女が持っている力強いスイープがフルに活用することが可能になった。また、北澤がセカンドやサードで見せていたシューター(投げ手)としての非凡な能力は、より高い精度が求められ得失点に直結するフォースで最大限に活かすことができた。

そして、新スキップとなった中嶋は、スキップを務めたジュニア時代に中部電力を破って日本選手権に出場し4位になった経験を持つなど、スキップとしての適性も高い選手。高いレベルのチームメイトと共に試合経験を重ねる中で、その適性が一気に開花したように見えた。

作戦の幅を広げた個々のレベルアップ

リードの石郷岡は、ポジションも役割も変わっていないが、見た目は彼女が一番変わった。昨シーズン華奢なイメージだった彼女の体つきは一回り大きくなり、スイープは力強さを増した。外目で見てその差がはっきりとわかるのだから、地道なトレーニングを相当積んだのだろう。彼女が松村と組んだスイープは今大会屈指の威力を発揮した。

そう、石郷岡のスイープに代表されるように、ポジションやスキップの変更を優勝に結び付けたのは、やはり個々のレベルアップに他ならない。そのレベルアップの象徴的なものが、中部電力のショット精度の高さだろう。特に他チームがドローショットに苦しんだ分、余計にそれは際立った。

思えば、昨年末の軽井沢国際の取材で、中部電力の選手たちが好調の要因に挙げていたのも、ショット率の高さだった。その際に松村が、「今までは、自分たちの投げのどこを直せばいいのか細かくわからなかったが、両角コーチに見てもらって納得して投げることができるようになった」と話してくれたように、昨年12月から平昌五輪男子代表の両角友佑がコーチとして加わった影響も大きかった。

ロコ・ソラーレと平昌五輪代表を争った頃の中部電力は、難易度の高いショットよりも確実性の高いショットを積み重ねる、どちらかというと破壊力よりも安定感重視の戦い方だった。しかし、スイープ力やショット精度がレベルアップした今大会の中部電力は、より攻撃的なショット選択ができる多彩なチームになっていた。

女子の世界選手権は3月16日からデンマークで開催される。石郷岡、中嶋、北澤が加入した現体制では日本代表として初めて臨む世界の舞台だ。ロコ・ソラーレに3戦全勝した実力は決してフロックではない。物怖じすることなく、その実力が発揮できれば、相当の好成績が期待できるはずだ。

国内のレベル引き上げたロコ・ソラーレ

今大会、準優勝に終わったロコ・ソラーレ。ドローショットのウエイトに終始苦しんだものの、その中で中部電力以外のチームに全勝し決勝の舞台まで勝ち進んだのは確かな地力がある証拠。スイープ力やコミュニケーション力、大事な場面でキーショットを決める力はもちろん、終盤の競った展開における作戦の駆け引きの巧みさはさすがだった。

その一方で、4強との対戦では終盤まで苦しい試合展開が続いたのも事実。その要因の1つが、フロントエンドと呼ばれるリードとセカンドの国内レベルが上がったことだ。そのレベルアップに大きな影響を与えたのは、ロコ・ソラーレのリード吉田夕梨花とセカンド鈴木夕湖の存在だろう。

平昌五輪で海外チームから『クレイジースイーパーズ』と呼ばれ恐れられたのが、身体は小さいものの腰高にならず重心の低い構えから繰り出される2人の回転数が早いスイープだった。それは、国内においてもロコ・ソラーレの大きな武器だったが、今シーズンはそのアドバンテージが縮まった感がある。今大会や軽井沢国際を見る限り、今シーズンは4強に限らずジュニアのチームを見ても女子のスイープ力が全体的に上がっているのだ。

また、スイープ力だけでなくリードやセカンドのセットアップに関しても、各チームがレベルアップを図ったことにより、以前に比べてサードの吉田知那美やスキップの藤澤五月に、優勢な状況で回ってくることが少なくなってきている。今大会、藤澤のショットがやや精彩を欠いたようにも見えたが、それは今まで以上に厳しい状況で藤澤の出番が回ってくるようになったことと無関係ではないだろう。藤澤の苦しんだのは、それだけ国内のレベルが上がったということでもある。

平昌五輪でロコ・ソラーレが銅メダルに輝いたという事実は、世界3位のチームを破らなければ、日本代表として世界の舞台に立つことができないことを意味する。その高い壁を乗り越えんとする力が、五輪翌シーズンして国内4強という構図を作り出した。そうだとすれば、それは世間にカーリングブームを巻き起こした以上に大きな功績と言えるかもしれない。

(「ようこそ カーリングの世界へ」土手克幸 )