普段であれば無意識にスムーズにできる動作でも、緊張することによってぎこちない動作になってしまうことがあります。この状態のことを〝意識的処理〟と言います。これは、プレッシャーがかかることによって自動化された動作に過剰に意識や注意を向けてしまい、意識のし過ぎによって普段のスムーズな動作ができなくなることです。

ゴルフの例えで言えば、いつもなら何も考えなくてもきれいなスイングができていたのに、緊張によって「頭の位置を固定させなければ」といったように、意識しなくても良かったことに注意が向いてしまい、逆にぎくしゃくしたスイングになってしまうことです。せっかく身につけている良いフォームを持っているのに、その自動化されたフォームが崩壊し、自動化から外れてしまうのです。緊張により、過剰な処理をすることでパフォーマンスを下げています。

また、普段のプレーでは自分の動作に集中できる場合でも、緊張することによって動作に注意を向けることができず、良いプレーができなくなることがないでしょうか。

この状態のことを〝注意散漫〟と言います。プレッシャーがかかることによって、自分の動作だけでなくいろいろなところに注意を向けてしまい、プレーに集中できなくなるのです。

例えば「失敗したらどうしよう」とか「監督に怒られないだろうか」など、自分の行動とは関係のないことが気になってしまうので、意識して「頭の位置を固定させなければ」と修正するべき場合にプレーへの注意が向けられなくなります。

さらに緊張によって自身をコントロールできないまま試合を続け、自分の思うようなプレーができないまま終わってしまうような例もあります。「頭が真っ白になった」とか「何を考えていたのか覚えていません」といったような緊張状態であったときです。

このような現象を〝注意狭隘(きょうあい)〟と言います。これは注意散漫と似た現象になりますが、自分のプレーに集中できれば良いパフォーマンスになるのが、緊張によってプレー以外のことにも意識が及んだり、プレー自体に意識ができなくなったりしてパフォーマンスを落としているのです。

これら緊張によってパフォーマンスを下げている現象として、上記に述べた意識的処理と注意散漫という、大きく分けて2つの要因があることが分かったと思います。あがりに悩まされている方は、それを対処する必要があります。それについての対処法は後日の記事で詳しく説明しますが、これら2つの原因が起きたときの対処をここで簡単に触れておきます。

緊張から「意識的処理」の現象が強く出るようであれば、自分の動作以外にあるポイントを注視し、意識を他の1点に向けるといいでしょう。これを〝クアイエットアイ〟と言います(こちらも後の記事で詳しく説明します)。プレーの前にどこでもいいので1点に視線を向けることで、動作とは別のポイントを強く意識するのです。注視した点に意識を集中させることでプレーの自動化を保護し、自身のパフォーマンスを維持します。

緊張から「注意散漫」の現象が強く出るようであれば、失敗などの不安から来るマイナスイメージを持たないようにすることが必要です。後の記事で説明する〝リラクセーション〟を行ったり、メンタルトレーニングで説明する〝ポジティブシンキング〟によって考え方をプラスの方向に向けるなど、冷静な心理下でプレーすると好結果が得られやすくなります。

また指導者は、緊張した選手に対してこれらの現象を個々に見極め、アドバイスする必要があります。

意識的処理が出ている選手には、落ち着かせるために技術的なポイントを指示すると余計にプレーに意識を向けてしまうため、逆効果になります。そして注意散漫が出ている選手には、マイナスイメージを想起させるような言葉を使ってしまうとさらに注意が散漫になってしまうので、指示する際の言葉には気をつけなければなりません。選手の特性をつかんで、ベストなパフォーマンスへ導いてあげることを意識してください。

※『note』より加筆・修正。

(「パフォーマンスを上げるためのスポーツ心理学」松山林太郎 )