平成も終わりに差し掛かり、テレビなどでは「平成30年間の名場面」などのような特集も多く見られるようになった。陸上競技においても、この30年間で多くの名シーンが生まれたわけだが、その中でも後世に語り継がれるような〝名勝負〟を筆者の独断でピックアップした。

今回は国内女子編ということで、データの観点から記録的価値が高い4試合をチョイス。すべて覚えているという方は、かなりの陸上ツウだ。

①太田陽子vs今井美希(2002年日本選手権女子走高跳)
1995年から2005年までの11年間、女子走高跳は太田陽子(現姓・ハニカット)と今井美希による2強が日本選手権の優勝を激しく争った。両者はともに2000年のシドニー五輪に出場を果たしている実力者で、太田はその大舞台で決勝進出(11位)の快挙を達成。予選落ちだった今井も、翌年9月に1m96の日本記録を樹立するなど、ともに一時代を築いた選手だ。

2人は同じ1975年生まれ(太田は早生まれ)ということもあり、幾度となく大会でぶつかってきたが、なかでも陸上ファンの間で〝名勝負〟と語り継がれているのが、2002年の日本選手権だ。

ともに1m86を2回目にクリアした時点で2位以内が確定すると、そこからは先攻の太田が失敗すれば今井も失敗、太田が成功すれば今井も成功……という手に汗握る展開が続いた。2人は1m92を1回で成功させた後の1m94を3回失敗し、勝負は無効試技数(失敗ジャンプの数)差によって決着。なんと、跳び始めの高さである1m80まで遡ることになり、その高さで1度失敗していた今井が2位、一発で跳んだ太田が優勝となった。

■2002年日本選手権における太田と今井の試技内容
          1.80 1.83 1.86 1.88 1.90 1.92 1.94
太田   〇    ―   ×〇  ×〇 〇    〇    ×××
今井 ×〇 〇   ×〇  ×〇 〇    〇    ×××

1m92といえば、2017年に開催されたロンドン世界選手権で7位に該当する好記録。最終的に2人は一度も世界大会で入賞することはできなかったが、同じ大会で複数の日本人がこの高さをクリアした例は、後にも先にもこの大会だけだ。

なお、太田はこの大会の翌月に、今井に次ぐ日本歴代2位タイの1m95に成功。日本選手権の優勝回数は今井が6回、太田が5回と、まさに日本のハイジャン全盛期を牽引した2人だった。

②小島初佳vs坂上香織(2004年日本選手権女子100m)
2004年の日本選手権女子100mでは、〝着差なし〟で優勝者が2人出るという珍しい出来事が起きた。

追い風1.1mと絶好のコンディションの中、3レーンの坂上香織と5レーンの小島初佳がほぼ同時にフィニッシュ。陸上競技では写真判定で1000分の1秒でも差があれば、〝着差あり〟で順位をつけるのだが、このレースでは〝同着〟という判定が下されたのだ。

しかも、タイムは2人にとって自己新となる11秒39(当時日本歴代2位)。これにより、小島はこの種目7連覇の偉業を達成し、坂上も7年ぶり2度目の選手権制覇となった。

日本選手権での〝2人優勝〟は1933年の男子1500m、1981年の女子400m以来、史上3例目の珍事件。そんな名勝負を、この年30歳を迎える同学年のベテラン2人が演じてみせたのだから、陸上ファンの記憶に深く刻まれるレースになったのではないだろうか。

ちなみに、この大会は他にも女子短距離で好記録が続出し、前日の100m予選では鈴木亜弓の11秒45(当時・日本歴代3位タイ)を筆頭に、瀬戸口渚、石田智子、坂上、小島、信岡沙希重が公認で11秒5台をマーク。決勝では3位の石田が11秒45で鈴木の記録に並んだ。さらに100m5位の信岡は翌日の200m決勝で23秒33の日本新記録(当時)を樹立するなど、日本女子スプリントの層の厚さが過去最高レベルに達した年でもあった。

■女子100m日本歴代10傑(2019年2月20日時点)
※太字は2004年日本選手権で樹立された記録
11.21 福島 千里(北海道ハイテクAC) 2010. 04.29
11.32 髙橋萌木子(平成国際大3) 2009. 06. 07
11.36 二瓶 秀子(福島大院) 2001. 07.14
11.39 坂上 香織(ミキハウス) 2004. 06. 05
11.39 小島 初佳(ピップフジモト) 2004. 06. 05
11.42 北風 沙織(北海道ハイテクAC) 2008. 04.29
11.43 市川 華菜(中京大3) 2011. 04.29
11.43 土井 杏南(埼玉栄高2埼玉) 2012. 05.13
11.44 渡辺 真弓(東邦銀行) 2011. 07.15
11.45 鈴木 亜弓(スズキ) 2004. 06.05
11.45 石田 智子(長谷川体育施設) 2004. 06.05

続きは陸上をますます面白くする~平成名勝負列伝~国内女子編②

(「データで楽しむ陸上競技」松永貴允)