第36回全農日本カーリング選手権大会が、北海道札幌市のどうぎんカーリングスタジアムで2月11日から開催される。過去の大会に比べ、今大会は予選リーグの試合から観戦が有料になったにも関わらず、平日の予選リーグでも全席販売終了となっている時間帯もある。平昌五輪でのカーリング人気を受けて、五輪翌シーズンにも関わらず、その関心は高いようだ。

NHKBS1では、予選リーグは12日から16日まで毎日男女1試合ずつ。プレーオフ以降は、16日の女子プレーオフ、17日の女子準決勝、男女決勝が放送予定となっている。平昌五輪以来のテレビ観戦を楽しむ方も多いだろう。そこで、今回は以前に当コラムで紹介した基礎知識初級編の2回目として、テレビ観戦を楽しむための予備知識をお届けしたいと思う。

テイクショットとドローショット

カーリングのショットは大きく分けて、テイクショット(下図左)とドローショット(下図右)の2つに分けられる。テイクショットはハウス内外に存在する石をはじくショット、ドローショットは石には触れずに置きにいくショットと考えていただければ結構だ。

テイクショットは、ビリヤードのショットを想像するとわかりやすいかもしれない。投げた石が当たる角度によって、投げた石をその場に留めたり、当てた石を意図する方向に飛ばす。ドローショットは相手の石に触れない分、意図する場所に止めるためには、石の曲がる幅とウエイトコントロール(投げる石のスピード)の両方が要求されることになる。

フリーガードゾーンルールがわかるとカーリングが面白くなる!

お互いのチームが交互に石を投げ合うカーリング。先攻と後攻のどちらが有利か?

その答えは、最後に石を投げてハウス内の状況を変えられる後攻だ。先攻がハウスに入れた石を後攻がはじき出す展開が続くとしたら…。最後に石を投げる後攻が得点する可能性が限りなく高いことは、想像に難くないと思う。

ただ、それと同時に後攻が2点以上獲得する可能性も限りなく低くなってしまう。そして、有利不利以前にこの攻防はなんとも味気なくつまらないだろう。この味気ない攻防を脱出し、様々な試合展開を可能にするルールこそ、フリーガードゾーンルールだ。

フリーガードゾーンは上図の斜線部分にあたる。先攻のリードから先攻のセカンドの1投目までの計5投は、このフリーガードゾーンにある石を打ち出してはならない(昨年までは後攻のリードの2投目までの計4投だったが、今年からルールが改正された)。

このフリーガードゾーンルールによって、先攻にも得点チャンスが生じ、後攻には複数得点のチャンスが拡がる。そして、「氷上のチェス」と呼ばれる戦術性の高さが生まれるのだ。

上図の2つは、フリーガードゾーンに配置したガードストーン(進路をふさぐ石のこと)を利用して、その後ろに投げた石を隠すショットだ。このショットをカムアラウンドといい、カーリングで頻繁にお目見えする基本のショットであり、攻防の成否を分ける大事なショットだ。この石がガードストーンの後ろに完璧に隠れると、相手は打ち出すのが難しくなる。

上図の左は、先攻(赤い石)のセカンドの1投目を終えた時点での一例。ハウス中央の赤い石が、前にある2つのセンターガード(中央付近に配置されたガードのこと。逆にサイドに配置するガードはコーナーガードという)に守られている。この2つのセンターガードのことをダブルセンターガードという。

この状況になると、先攻のセンターラインが強固となり、有利な後攻といえども苦しい展開になる。それを嫌ったのが上図の右。後攻はリードの2投目でハウス中央の赤い石に触れてハウス内の状況を変えようとしている。

フリーガードゾーンルール内でのセットアップは、エンド後半のサードやフォースのような華やかなものではないかもしれない。しかし、意図通りにエンドを進めるためには欠かせない重要な攻防だ。どんな思惑を持って、どこに石を配置しようとしているのか? それを自分なりに読み取りながら試合を見るとカーリングはより面白くなる。

カーリングの“導く人”リードの対決に注目しよう!

フリーガードゾーンルールでの石の配置は、エンドの土台作り。その成否をわけるのが、最初の2投を投げるリードの出来だ。リードが完璧な2投を決めて相手より優位に立てば、セカンド以降の選手が無理の少ないショットを選択できる。

逆に、リードの2投で劣勢になると、セカンド以降は挽回するために難しいショットの選択を迫られる。特にレベルが高いチーム同士の戦いになればなるほど、一度ついた優劣をくつがえすのは難しく、リードの出来がそのまま試合の勝敗につながることも珍しくない。また、アイスコンディションの情報が少ない中で投げる難しさもある。

軽井沢国際カーリング選手権で取材した際、北海道銀行フォルティウスの船山弓枝さんにリードというポジションの緊張感や難しさを聞いてみた。過去に3回の五輪出場経験を持つ船山さんは、今シーズンからリードを務めている。

「石がない状況でアイスの読みをスタートさせて、次につなげていくホント最初の時点なので、その1投でしっかり読めると(チームが)早い段階でアイスを読むことができる。アイスリーディングの部分ではプロフェッショナルでなければいけないと思っています。(カーリングは)リードのセットアップから組み立てが始まるので、非常に重要なポジションと考えています」

セカンドからフォースのポジションが、日本語で順番を表す呼び名なのに、リードだけが違うというのが興味深い。 リードは「導く、案内する」という意味を持つ。まさに、カーリングのリードは〝導く人〟だ。

日本選手権で、チームを勝利に導くリードは誰になるのか?

ニュースではサードやフォースといったポジションが脚光を浴びるが、ぜひリードにも注目していただきたい。

(「ようこそ カーリングの世界へ」土手克幸 )