午後の決勝。

試合はDelight青森のペースで進んでいた。お互いが有利な後攻エンドで点を取り合う展開で進み、第7エンド終了時点でDelight青森が5-4で1点リード。数字上は僅差だが、その内容はかなり異なる。Delight青森が3度の後攻エンドで2度複数得点に成功したのに対し、Calfikioは4度の後攻エンドを全て1点にとどまっていた。

その最大の要因は、両チームのセットアップの精度だ。セットアップとは、エンド後半の布石となる石を配置していくことで、将棋の駒組みのようなもの。Delight青森は、このセットアップで常にCalfikioを上回ることで、先行時は相手に複数得点のチャンスを与えず、後攻時には複数得点のチャンスをうかがう戦いができていた。

第8エンドの後攻はDelight青森。複数得点に成功すれば、残り2エンドで3点差以上がつき、一気に勝利と日本選手権が近づく。1点止まりだとしても、残り2エンドで2点差はかなり有利な展開だ。

しかし、第7エンドまで試合をコントロールしていたDelight青森の立場が、わずか2エンドの攻防で逆転するのだから、カーリングはわからない。第8エンドに先攻のCalfikioが1点スチールして同点に追いつくと、続く第9エンドも1点スチールを決めて、ついに逆転。

Delight青森は、後攻の第10エンドで1点を返して同点に追いつき、エキストラエンドでもナイスショットを決めてプレッシャーをかけたが、最後はCalfikioが踏ん張り1点を獲得。熱戦に終止符が打たれた。

Delight青森 02010200010 6
Calfikio     10101011101 7

「勝ち切れる場面が要所要所にあったので」。青田は、そう試合を振り返りつつ、こう続けた。「ただ、決めきれるかどうかは別の話になってくるのが、カーリングなんですけど」。

Delight青森にとって、2年連続で日本選手権出場は逃したというショックは、決して少なくない。特に、結成間もなかった前回と今回とでは、出場を逃した重みも違う。齋藤は、「昨年よりは上がってきているのは感じている」とチームの成長を感じつつも、「もっと上げていける部分が、自分自身もチームとしてもあると思うので、まだまだ登っている途中の感じ」とチームの完成度がまだ足りないことも認めている。

決勝戦に関して厳しいことを言えば、7エンドまで有利に試合を進めながらも、わずか1点のリードにとどまったという見方もできた。3点を獲得するチャンスや、スチールに持ち込めるチャンスがなかったわけではなく、それを活かすことができれば結果は違ったものになっていただろう。

また、企業から支援を受けるチームは、相応の結果が求められるという側面もある。「東北選手権を優勝で終わって、なんとか日本選手権にとは思っていたけど、そうならなかった。もちろん、それは結果なので、どうなるかは一旦ね(わからないですけど)」と、青田が話すように、チームのバックアップ体制や個人の去就も含め、今後は何も保証されているわけではない。

ただ、Delight青森が見せた戦いぶりは、決して下を向くような内容ではなかった。木原が見せたセットアップは、軽井沢国際で見た国内トップチームのそれに決して劣るものではなかったし、体格に恵まれフォース経験も長い田中には、スケールの大きさを感じた。青田は所々でキーショットを決めてチームを勇気づけ、齋藤は的確な作戦でチームを導いた。いいショットを決めて笑顔を見せる若い2人が、チームに明るさと勢いを与え、ベテランの2人がチームに精神的な落ち着きと安心感をもたらす。

Delight青森の試合からは、いい緊張感でプレーができるチームのまとまりと雰囲気の良さを感じたが、インタビューしてみて改めてそれがわかる。それらは、むしろ今後に期待を抱かせるものだった。

だからこそ、青田はチームの明るい未来を願う。

「チームの伸び代はあるんです。私個人的な感じだとしたら、やっぱり未来をどうしようかな、と。未来があるんです。とても明るくて前向きな伸び代だらけの。私は、その未来を如何に明るくするために、どうベストを尽くすことがいいのかな、と。 勝ったり負けたりすると、心が折れたりまた上がったりっていうのがある。

けれど、今年たまたま勝ったとか、今年勝ったけど来年はもうチームがバラバラとか、そういうチームにならない底力みたいなのを、少しずつ少しずつつけているところではあると思うので。もちろん長い目を見れば1人2人は変わっていくとか、少しずつ変化はあるかもしれないけど、息の長く戦い続けられるチーム作りの底辺として始まったばかりだなとは思ってはいます」

そして最後に、青森で始まったチームにカーリング人生を投じる若い世代への惜しみない愛情を付け加えた。

「青森でやっていくと決めた若い世代をね…、やっぱり宝物だと思うんですよ。それを、世界を目指すためにどういう形で、となったら環境はまだまだですけど」

僕は、現役復帰して改めて感じるカーリングの魅力について話してくれた青田の言葉を今でも思い出す。

「色んな角度とか観点、今までにない景色が見えた中で、今カーリングをやっているということは確かです。魅力もありますよね、やっぱり面白い競技だなと。それと、みんな自分の人生があるじゃないですか。その人生の1ページなり2ページなり、少なからずみんな人それぞれの人生の一部にカーリングがあって…、中々簡単には言い表せないくらい魅力の詰まった時間を過ごしているなとは思いますね」

彼女たちがカーリングを通して共有し合う、簡単には言い表せないくらい魅力の詰まった時間。その先にどんな未来が待っているのだろうか。青森から世界へ。Delight青森の明るい未来への挑戦はまだ始まったばかりである。

(「ようこそ カーリングの世界へ」土手克幸 )