スポーツ選手であれば、試合前に緊張した経験がある人は多いかと思います。過去の調査では、9割以上の選手が試合前に緊張した経験があると回答されています。中には「緊張したことがない」という選手もいますが、良いプレーをしようという思いから緊張感を抱いてしまうことは、ほとんどの選手が感じたことのある、切り離すことのできない感情だと思います。

この良いプレーをしようという思いが起きる要因はさまざまだと思います。「良い成績を挙げたい」「監督の期待に応えたい」「親を喜ばせてあげたい」といった、自分の持っている力を発揮して結果を残したいという欲求が起きるからです。

ただ、それが自身への重圧になり、自分を追い込んでしまうことで緊張につながってしまうのです。この要因を、一般的に「プレッシャー」と呼んでいます。

プレッシャーという言葉は、どちらかといえば悪いイメージとしてとらえられています。「プレッシャーがあって、思うように動けませんでした」とか「プレッシャーはありましたが、何とか勝つことができました」といった場合のように、「プレッシャー=悪」のようなコメントがよく聞かれます。

しかしプレッシャーによって悪い影響がもたらされる場合があれば、プレッシャーが良い影響を与えてくれる場合もある、ということを理解する必要があります。

プレッシャーがあることで程よい緊張感が生まれ、練習ではできなかったプレーが試合ではできた、というような経験をもつ人も多いのではないでしょうか。

実際、大舞台で極度のプレッシャーがあったからこそ自身の最善の実力が発揮される選手もいるのです。したがって、プレッシャー=悪ではないのです。

一方で、プレッシャーによってパフォーマンスが低下してしまうケースがあることに、選手は悩まされます。この「緊張により思うようなパフォーマンスにならない」ケースを、スポーツ心理学では〝あがり〟と呼んでいます。「あがってしまった」や「あがり症」と使用されている用語があるので、なじみ深い名称だと思います。

「あがり・緊張」という言葉と「プレッシャー」という言葉は、一般的には同じ意味合いとして使用されていると思います。しかしプレッシャーがあることによってあがりが生じるのであって、これらの言葉はスポーツ心理学では区別して使用されている言葉なのです。これからは「あがり・緊張」という言葉と「プレッシャー」という言葉を分けて認識し、「プレッシャー」に負けずに力に変えるきっかけとしてもらいたいと思います。

※『note』より加筆・修正。

(「パフォーマンスを上げるためのスポーツ心理学」松山林太郎 )