スポーツ界には強力選手が同じ学年に集中する「〇〇世代」という呼称がいくつも存在する。野球では「松坂世代」や「ハンカチ世代」、サッカーでは小野伸二、稲本潤一、高原直泰らが中心となり、1999年のFIFAワールドユース選手権準優勝に輝いた「黄金世代(79年組)」が有名だろう。

実は、陸上界にも屈指の実力者が多数そろう世代がいくつか存在する。その中でも特に秀でているのが、男子5000mとマラソンで日本記録を持つ大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)を筆頭とした1991年度生まれだ。この世代は2010年の世界ジュニア選手権(現・U20世界選手権)で過去最高成績(金メダル1、銀メダル2、銅メダル2)を収め、専門誌では〝プラチナ世代〟と称されている。

この世代の特徴は、ジュニア期に活躍した選手がそのままシニアでも活躍していることだ。例えば、男子110mハードルで日本歴代6位の13秒47を持つ矢澤航(デサントTC)や、女子長距離界のエース鈴木亜由子(日本郵政グループ)は、中学時代から日本一を経験。男子200mの飯塚翔太(ミズノ)、同110mハードルの矢澤、同400mハードルの安部孝駿(デサントTC)、松下祐樹(ミズノ)、同走高跳の戸邉直人(つくばツインピークス)、同ハンマー投の柏村亮太(ヤマダ電機)、同やり投のディーン元気(ミズノ)、女子100mの世古和(CRANE)、同400mの新宮美歩(東邦銀行)、同競歩の岡田久美子(ビックカメラ)、同走高跳の京谷萌子(北海道ハイテクAC)、同七種競技の桐山智衣(ヤマダ電機)の12名は、高校時代にインターハイを制し、日本選手権チャンピオンにも輝いている。

そして前述の世界ジュニアでは、飯塚が男子200mで日本初の金メダルを獲得したほか、安部とディーンが銀メダル、戸邉と岡田が銅メダルに輝いた。その後は大迫が5000mとマラソンで日本記録を樹立。飯塚は男子4×100mリレーのリーダー的存在として、リオ五輪(銀メダル)とロンドン世界選手権(銅メダル)の躍進を牽引するなど、これは歴代最強の世代と言ってもいいのではないか?……と書きたいところだが、「他にも同じように活躍している世代はあるんじゃないの?」という反論に備え、世代別(1985年度生まれ~1985年度生まれ)の日本選手権優勝者の数をまとめてみた。それが以下の表だ。※青字は一度でも日本記録保持者になったことのある選手

<1985年度生まれ>15人(男子10人、女子5人)
●男子/塚原直貴(100m) 下平芳弘(800m) 上野裕一郎(1500m・5000m)、井野洋(1500m) 松岡佑起(5000m) 篠藤淳(3000m障害)森岡紘一朗(20km競歩・50km競歩)土屋光(走高跳) 菅井洋平(走幅跳) 山田壮太郎(砲丸投)●女子/丹野麻美(400m) 岸川朱里(800m) 桜井里佳(400mハードル) 大利久美(20km競歩) 海老原有希(やり投) 吉田恵美可(やり投)

<1986年度生まれ>15人(男子10人、女子5人)
●男子/佐分慎弥(100m) 藤光謙司(200m) 口野武史(800m) 佐藤悠基(5000m・10000m) 竹澤健介(10000m) 武田毅(3000m障害) 鈴木義啓(三段跳) 十亀慎也(三段跳) 池田大介(十種競技) 右代啓祐(十種競技)●女子/青木沙弥佳(400m、400mハードル) 陣内綾子(800m・1500m) 中村友梨香(5000m) 渕瀬真寿美(20km競歩) 横溝千明(砲丸投)

<1987年度生まれ>13人(男子9人、女子4人)
●男子/金丸祐三(400m) 横田真人(800m) 渡邊和也(5000m) 星創太(5000m) 鈴木雄介(20km競歩) 藤澤勇(20km競歩) 高張広海(走高跳) 鈴木崇文(棒高跳) 荻田大樹(棒高跳)●女子/新谷仁美(5000m・10000m) 我孫子智美(棒高跳) 中尾有沙(三段跳) 東海茉莉花(円盤投)

<1988年度生まれ>16人(男子6人、女子10人)
●男子/江里口匡史(100m) 高瀬慧(100m・200m) 田中佳祐(1500m) 出口和也(5000m) 山下洸(3000m障害)、荒井広宙(50km競歩) ●女子/髙橋萌木子(100m・200m) 福島千里(100m・200m) 田中千智(400m) 久保瑠里子(800m) 小林祐梨子(1500m・5000m) 須永千尋(1500m) 西原加純(10000m) 木村文子(100mハードル) 石澤ゆかり(3000m障害) 渡邉有希(走高跳)

<1989年度生まれ>9人(男子2人、女子7人)
●男子/鎧坂哲哉(10000m) 堤雄司(円盤投) ●女子/絹川愛(5000m) 寺田明日香(100mハードル) 三郷実沙希(3000m障害) 竹田小百合(三段跳) 吉田麻佑(三段跳) 大谷優貴乃(砲丸投) 坂口亜弓(円盤投)

<1990年度生まれ>11人(男子5人、女子6人)
●男子/岸本鷹幸(400mハードル) 衛藤昂(走高跳) 大岩雄飛(走幅跳) 岡部優真(男三段跳) 中村明彦(十種競技) ●女子/市川華菜(100m・200m) 紫村仁美(100mハードル) 前田愛純(走高跳) 青島綾子(棒高跳) 坂本絵梨(三段跳) 赤井涼香(七種競技)

<1991年度生まれ>20人(男子11人、女子9人)
●男子/飯塚翔太(200m) 大迫傑(5000m・10000m) 矢澤航(110mハードル) 松下祐樹(400mハードル) 野澤啓佑(400mハードル) 安部孝駿(400mハードル) 戸邉直人(走高跳) 山本聖途(棒高跳) 柏村亮太(ハンマー投) ディーン元気(やり投) 新井涼平(やり投) ●女子/世古和(100m) 新宮美歩(400m) 鈴木亜由子(10000m) 吉良愛美(400mハードル) 井上麗(20km競歩) 岡田久美子(20km競歩) 京谷萌子(走高跳) 渡邊茜(ハンマー投) 桐山智衣(七種競技)

<1992年度生まれ>14人(男子8人、女子6人)
●男子/山縣亮太(100m) 原翔太(200m) 川元奨(800m) 秋本優紀(1500m) 村山紘太(5000m) 大六野秀畝(10000m) 髙橋英輝(20km競歩) 嶺村鴻汰(走幅跳) 伊藤美穂(800m) 大森郁香(800m) 森智香子(3000m障害) 竜田夏苗(棒高跳) 五十嵐麻央(走幅跳) 宮坂楓(三段跳)※村山は10000mで日本記録

<1993年度生まれ>10人(男子7人、女子3人)
●男子/ケンブリッジ飛鳥(100m) 戸田雅稀(1500m) 松枝博輝(5000m) 増野元太(110mハードル) 潰滝大記(3000m障害) 湯上剛輝(円盤投) 墨訓熙(ハンマー投) ●女子/鍋島莉奈(5000m) 宇都宮絵莉(400mハードル) 甲斐好美(走幅跳)

<1994年度生まれ>9人(男子4人、女子5人)
●男子/新井七海(1500m) 服部弾馬(5000m) 高山峻野(110mハードル) 山下航平(三段跳) ●女子/山田はな(800m) 小林美香(1500m) 木村友香(1500m) 青木益未(100mハードル) 勝山眸美(ハンマー投)

<1995年度生まれ>12人(男子4人、女子8人)
●男子/桐生祥秀(100m) 金井大旺(110mハードル) 野田明宏(50km競歩) 山本凌雅(三段跳) ●女子/杉浦はる香(400m) 北村夢(800m) 松田瑞生(10000m) 高見澤安珠(3000m障害) 太田亜矢(砲丸投) 辻川美乃利(円盤投) 斉藤真理菜(やり投) 山﨑有紀(七種競技)

上の表を見ると、日本選手権優勝者の数は1991年度生まれが20人で最多。以下16人の88年度生まれ、15人の85年度生まれと86年度生まれ、14人の92年度生まれと続く。プラチナ世代の1~2学年上にあたる89年度生まれ、90年度生まれは合計しても優勝経験者が20人しかおらず、しかも日本記録を樹立したことのある選手も2017年の堤雄司(男子円盤投)だけ。いかに1991年度生まれの人材が豊富だということが分かるだろう。

上に挙げた選手以外にも、プラチナ世代には前・男子マラソン日本記録保持者の設楽悠太(Honda)、高卒2年目で10000m27分41秒57(当時・日本歴代6位)を叩き出した宮脇千博(トヨタ自動車)、2017年ロンドン世界選手権男子50km競歩で5位入賞を果たした丸尾知司(愛知製鋼)、2015年北京世界選手権女子マラソン代表の前田彩里(ダイハツ)と、そうそうたる顔ぶれが並ぶ。

今回の調査は1985年度生まれ以降を対象としたが、遡ってもこれだけの選手がそろう世代はなかなか無いのではないだろうか(末續慎吾、内藤真人、醍醐直幸、澤野大地、池田久美子、川﨑真裕美、森千夏と日本記録保持者が7人もそろっていた1980年度生まれがライバルか……)。

この世代は2020年の東京五輪を28~29歳で迎え、まさに競技者として円熟期に入っている年頃だ。若い世代を牽引し、いつまでも〝最強世代〟として輝いていてほしい。と、同じ1991年度生まれの筆者は願っている。

(「データで楽しむ陸上競技」松永貴允 )