2018年12月20日から3日間、軽井沢国際カーリング選手権を取材するために、軽井沢アイスパークを訪れた。長野五輪の翌年から開催された同大会は、今回が20回目。国内トップチームに加え、海外の強豪チームも多く参加するハイレベルな大会で、2014年からはアジアで最初の「ワールドカーリングツアー」に認定されている。

同ツアーは、シーズンを通して世界の各地(主にヨーロッパと北米)で行われる賞金大会だ。大会の成績に応じてポイントも与えられ、そこからチームの世界ランキングが算出される。テニスの錦織圭選手が世界各地を転戦しているATPツアーのカーリング版、と考えていただけるとイメージが湧きやすいかもしれない。

大会を訪れる前に考えていた見どころは大きく分けて2つあった。

1つは、海外の強豪チームが見せてくれる高レベルのパフォーマンスだ。今回来日したチームも豪華な顔ぶれで、評判通りの強さを見せた。男子で優勝したのが、世界選手権優勝の実績を持つカナダのTeam Carruthers(カルザース)。3位は、平昌五輪で金メダルを獲得したアメリカのTeam Shuster(シュスター)。女子の優勝は、世界選手権の表彰台経験も豊富なロシアのTeam Sidorova(シドロワ)。4位には、過去にこの大会を制しているカナダのTeam Walker(ウォーカー)が入っている。その他の来日チームも精度の高いショットを随所に見せてくれた。

もう1つの見どころが、2月に札幌で行われる日本選手権を控える国内トップチームの戦いぶりだろう。彼らにとって大きな目標となるのが、日本選手権のタイトルであり、そのタイトルを獲得したチームに与えられる世界選手権(男子3月30日~4月7日カナダ、女子3月16日~24日デンマーク)への出場だ。各チームが日本選手権に向けたチームの現在地を測る当大会は、日本選手権の行方を占う前哨戦として見ることができる。

男子では、現日本代表で11月のPACC(アジアパシフィックカーリング選手権)で優勝したTeam Y.Matsumura(コンサドーレ札幌)が準優勝。昨シーズンの日本選手権覇者で世界選手権代表のTeam Iwai(札幌国際大学)は、3位決定戦は敗れたものの終始安定感ある試合運びで4位。女子は、ロコ・ソラーレが直前まで海外遠征で不参加だったが、今シーズンの海外遠征で好成績を残しているTeam Yoshimura(北海道銀行)が準優勝。ロコ・ソラーレと平昌五輪代表決定戦を戦ったTeam Nakajima(中部電力)は3位。昨シーズンの日本選手権覇者で世界選手権代表のTeam Koana(富士急)は準々決勝でTeam Nakajimaに敗れたものの、今は先を見据えた強化と割り切っており、さらなるチーム力アップが見込めそうだ。

しかし、見どころはそれだけではなかった。決してお目当てではなかったチームや選手の戦いぶり。テレビではほとんど映らないであろう掘り出し物の光景。現地観戦に行くと、当初思い描いていたものとは違う新たな発見や気付きが必ずある。それは、現地観戦の醍醐味の1つでもある。

僕にとって、軽井沢国際カーリング選手権のそれはTeam Yamaguchi(SC軽井沢クラブ)だった。

平昌五輪男子代表のSC軽井沢クラブのメンバーは、昨シーズン終了後それぞれの道を歩むことになった。リードの両角公佑は、今シーズンはチーム東京(I.C.E)でプレー。サードの清水徹郎はコンサドーレ札幌に移籍。スキップの両角友佑は、来シーズン以降の新チーム結成を目指し、12月からは女子の中部電力コーチを務めている。フィフスの平田洸介は地元北見市に戻り、新チーム(KiT CURLING CLUB)を結成した。現在のSC軽井沢クラブは、セカンドだった山口剛史がスキップとなり、小泉聡、大野福公、金井大成の3人を新メンバーに迎え入れて、今夏以降に結成した全く別のチーム。〝新生・SC軽井沢クラブ〟だ。

今大会、Team Yamaguchiは予選リーグ初日からタフな組み合わせ。初戦が優勝したカナダのTeam Carruthers(カルザース)、2戦目が韓国のTeam Park(パク)といきなり海外の強豪チーム2連戦。結果は2連敗だったが、「世界ランキング上位のチームにしっかりと戦えたというのは、手ごたえを感じられたし良かった」と山口が話す通り、自分達にチャンスがくる勝負所まで焦れずに我慢強くつなぐ戦いで、初戦は第6エンドまで2-3、2戦目は第7エンドを終えて3-2と終盤まで互角の試合を展開(今大会は8エンド制)。

そうかと思えば、決勝プレーオフに進むために連勝が条件となる残り2試合では、複数得点を狙う攻めに重きを置いた戦いで見事2連勝。決勝プレーオフ1試合目となる準々決勝では、予選初戦で対戦したTeam Carruthers(カルザース)と再び対戦し、2-6で敗れたが、第6エンドまでは2-2の同点と意地を見せた。大会を通じて、相手に応じて攻守を柔軟に使い分けるメリハリの効いた作戦は光った。また、山口剛史が「まだ僕がチームの中で一番強い(笑)」と前置きしつつも、「だいぶ信頼して僕が最後のドローを投げられるようになっている」と話すようにチームのスイープ力も他チームに負けない力強さがあった。

メンバーが大きく変わった新生チームとはいえ、SC軽井沢クラブという看板を背負っている。しばらくは〝平昌五輪男子代表の〟とか〝平昌五輪後にメンバーが変わった〟というような接頭語がついて回ることは仕方がないかもしれない。実際、大会公式プログラムのTeam Yamaguchiの紹介欄には、平昌五輪8位という実績が明記されていたし、予選初日で2連敗した際には、上述の接頭語がついたニュースも見かけた。

しかし、「チーム作りをゼロから始めているので、他の選手を気にしてみたり、どうやったらコミュニケーションが上手くいくだろうというのを考えながらチームを作るのが楽しい」と、やりがいを話す山口剛史からは、そんな気負いは感じられない。むしろノープレッシャー。仮にプレッシャーを感じたとしても、それも学びに変えてしまうのではないかと思う程の柔軟ささえ感じた。

今大会の戦いぶりから、日本選手権への期待を向けると、「日本の男子はコンサドーレ(札幌)さんとTeam Iwai(札幌国際大学)さんに引っ張ってもらって、僕らは陰のほうから楽しませてもらえたら(笑)」とはぐらかされた。日本選手権の前には、1月下旬の中部選手権が控える。北海道ブロックが出場枠3なのに対して、中部ブロックの出場枠はわずか1つ。同ブロックには、日本選手権常連で今大会の準々決勝では平昌五輪金メダルのTeam Shuster(シュスター)と死闘を演じたTeam Ogihara(チーム荻原)、昨シーズンの日本選手権3位のTeam Shimizu(軽井沢CC) が控えている。決して簡単なミッションではない。多分、日本選手権の切符を争う一番の激戦区になるだろう。

最後に、山口剛史はこう締めくくった。

「色んなチームから吸収することがたくさんある。勉強しながら進みたいと思ってます」

謙虚にどん欲に学び取り、成長を続けるノープレッシャーの新生・SC軽井沢クラブ。彼らの今後から目が離せそうにない。

(「ようこそ カーリングの世界へ」土手克幸 )