「そこはパスじゃなくてシュートだろ!」

サッカーを見ながら、そんな言葉を発したことのある人は多いのではないだろうか。メジャースポーツと呼ばれるスポーツにおいては、多くの人が何かしら独自の見解や主張を持って試合を見ている。多くの試合を見た経験。雑誌やテレビから得た知識。それらが元になって、自分なりの想像を働かせながら試合を見ているからだ。試合を見ることに慣れている。そして、試合をただ受け身で見るのではなく、能動的に見ている。

先日、平昌五輪カーリング女子日本代表であるロコ・ソラーレの選手達が試合中に使っていた「そだねー」が、2018年の流行語大賞に選ばれた。銅メダル獲得の快進撃と、このフレーズの相乗効果で、カーリングは世間の関心の目に触れた。では、カーリングの試合を見ることに慣れている人は果たしてどのくらいいるのだろうか?

カーリング1試合の時間は長い。試合途中で相手がコンシード(相手の勝利を認めギブアップすること)したとしても約1時間半。エキストラエンド(同点だった場合に行われる延長戦)にもなれば、2時間半を超えることもある。ずっと受け身で見るには、中々の忍耐を要するかもしれない。

だけども、基本知識が身に付いて、作戦の意図を知り、先の展開を自分なりに予想しながら試合を見ることができれば、カーリングは面白くなる。カーリングは氷上のチェスと呼ばれるほど、戦術性の高いスポーツ。能動的に見るにはぴったりのスポーツだ。そこで、このコラムでは時折、試合を見るのに手助けとなるカーリングの知識を紹介していこうと思っている。今回がその第1回目となる。

基本的なカーリングの流れと、得点の数え方

カーリングでは、お互いのチームが交互に8投ずつ、計16投を投げ合って、その得点を競う。この一連の流れを「エンド」という単位で呼び、1試合につき8エンド、又は10エンドで合計得点を競う。同点の場合は、エキストラエンド(延長戦)で勝敗を決める。試合に出るのは1チーム4人だ。投球順でポジション名があり、最初に投げる人をリード、順にセカンド、サード、最後に投げる人をフォースと呼び、1人2投ずつ投げる。

リード ●● → セカンド●● → サード ●● → フォース●●

フォースという言葉は聞き慣れない人と思う。例えば、ロコ・ソラーレで最後に投げる藤澤五月選手はスキップと呼ばれていた記憶がある人は多いはず。実は、スキップはチームにおける役割の呼び名。ただ、スキップを務める選手は、投球順のポジション名でもそのままスキップと呼ばれるのが通常。例えば、サードの選手がスキップの場合は、

リード→セカンド→スキップ→フォース

と呼ぶことになる。ただ、フォースの選手がスキップを務めるチームがとても多いので、スキップ=最後に投げる人と記憶されやすく、フォースという言葉をあまり聞く機会がないというわけだ。ちなみに、試合に出ないリザーブの選手はフィフスと呼ぶ。ただ、最近ではオルターネイトと表記されることが多くなっている。

さて、カーリングの得点はどのように決まるのか。的のような形をした円は、「ハウス」と呼び、一番外側の青色の部分に少しでも石がかかっていれば、得点対象の石になる。ハウスの真ん中に一番近い石は、No,1ストーンと呼び、外にいくに従って、No,2、No3……と呼んでいく。得点の権利は、No,1ストーンを持っているチームに与えられる。

ただ、得点数はハウス内にある自チームの石の数とは限らない。カウントされるのは、
“相手の石よりも内側にある自チームの石のみ” ここがポイントになる。

上の図の時点では、赤色の石よりも黄色の石が4個内側に入っている。このままなら黄色のチームが4点。では、ここに赤色の石を投げ入れてみる。

ここに赤色の石が止まると、この石より内側にある黄色の石は1個になるので、黄色のチームは1点しか取れなくなる。赤色の石が、外にあった黄色の石を無力化させてしまったのだ。もちろん逆のケースもある。

投げられた黄色の石がNo,1ストーンだった赤色の石をはじき出して、その場に留まったので、黄色のチームに4点が入る。この場合は、投げられた黄色の石が、外側にあった自チームの石を得点の対象として生き返らせている。この得点数のルールが、大きなピンチをしのぐ1投も、一気にチャンスを広げる1投も作り出し、カーリングの攻防を面白くさせている。

いいショットを生み出すのは、4人の共同作業

前でスキップの話が出たので、チームにおける役割に関しても触れていこう。
カーリングは、石を投げる選手の力量だけでは、いいショットは生まれない。いいショットを生むには、4人の共同作業が必要だ。(ちなみに、石を投げる動作のことを、「デリバリー」と呼ぶが、専門用語ばかりで読みづらくなるのを防ぐ目的で、なるべく使わないで話を進める)

先で触れたスキップは、チームの司令塔であり、カーリングにおける一番花形のポジション。自分が石を投げるとき以外は、常にハウス側に立っている。石を投げる選手を野球のピッチャーに例えれば、スキップの立ち位置はキャッチャーだ。チームの作戦を決めて、それに応じたショットの種類と石を置く位置を味方に指示する。

石を投げる選手の両脇には、「スイーパー」と呼ばれる2人の選手がデッキブラシのような道具を持ってスタンバイし、投げられた石に寄り添うように進む。スイーパーの役割は、“投げられた石の微調整”と考えてもらうとわかりやすいかもしれない。進んでいく石の前面の氷をブラシでこする「スイープ」と呼ばれる動作で、石の曲がり方や滑り具合を調節する。投げられた石のその進路を見極めながら、その「スイープ」の指示を出すのも、やはり司令塔であるスキップの役割だ。的確な判断で石を作戦通りの位置に導いていく。

石を投じる選手の精度。2人のスイーパーの微調整。的確なスキップの指示。この全てが揃った時に、いいショットが生まれるということを覚えておいていただきたい。

※最初はごく基本的な知識から入り、回を追うにつれてその内容を深く掘り下げていくつもりなので、カーリングの知識をある程度持っている方には、退屈に感じたかもしれない。多くの人にカーリングという競技を知ってもらうためとご容赦願いたい。また、知識のおさらいとして読んでいただければ有難い。

(「ようこそ カーリングの世界へ」土手克幸 )