全日本大学駅伝のスタート地、愛知県名古屋市の熱田神宮は例年になく暖かな朝を迎えていた。

号砲とともに伊勢路へと飛び出していった27名の選手たち。一番最初に三重県伊勢市の伊勢神宮へ飛び込んだのは昨年の覇者・駒大だった。

今大会でまず視聴者を沸かせたのは駒大のルーキー・佐藤条二だ。9.5kmの1区、中継所まで残り僅かな9kmに差し掛かった頃、佐藤が飛び出す。東京五輪男子3000m障害で7位入賞を果たした三浦竜司(順大・2年)が昨年樹立した区間記録を2秒更新し、トップで中継所に飛び込んだ。

優勝候補として順調な滑り出しを見せた駒大だが、2区でシード圏外へ転がり落ちてしまう。

6区へタスキが渡った段階でトップと1分51秒差の9位と「これでは優勝まではどうかなという気持ちがありました」と大八木弘明監督。しかし、6区以降の後半区間で前に出ると計画していた通りに6区の安原太陽(2年)が4位まで順位を押し上げ、流れを一気に変えた。

大エースの田澤廉(3年)をアンカーに配置しなかったのは「最終区間までにだいぶ離される可能性があると思ったので、その手前でなんとか食い止めようと7区に持ってきた」と大八木監督はオーダーの種明かしをした。田澤はその采配に応え、1分36秒先にスタートした1位の東京国際大を13km過ぎで捕らえると、そのまま逆転。後続に約20秒の差をつけ、タスキをアンカーにつないだ。

最終区、花尾恭輔(2年)は2位に浮上した青学大・飯田貴之(4年)に11kmで追いつかれ、約6kmを並走。残り2kmで花尾がラストスパートを仕掛け、2年連続14回目となる日本一に輝いた。

飯田との接戦をヒヤヒヤしながら見ていたという大八木監督だが、「追いつかれても後半で前に行くだろうなという思いはありました」と自信も持っていた。

勝ちに行くつもりで手にしてきた過去の日本一。今回は主力の鈴木芽吹(2年)や、山野力(3年)らの故障で全日本大学駅伝への出場を断念したことで「勝てるかなという思いがものすごくありました」と大八木監督は話す。

「このチームで是が非でも優勝しなくてはいけないのではなく、初出場の選手たちに経験させながら結果を出す方向で考えた」

指揮官は初出場の選手たちにチャンスを活かすようにと伝えたほか、気楽な気持ちで戦えるように目標を優勝から3位にする決断をしたと振り返る。

そういえば、駅伝で勝てなくなった時期に練習の仕方や選手との関わり方などに悩み、自身が変わることから取り組んだと今年の箱根駅伝後に大八木監督は語っていた。

今回、目標を〝下方修正〟したのは選手とのコミュニケーションを変化させてきたからの判断だったのかもしれない。

ただ、次戦は目標を下げるつもりはないようだ。「当然箱根駅伝では連覇する計画を立てながらやっていこうと思います」と決意を口にしている。

来年の正月、今回経験を積んだ選手たちが指揮官のその想いに応えてくれるだろう。

(「学生陸上スポットライト」野田しほり)