無観客試合ながら、今年も無事に日本インカレが閉幕した。さて、日本インカレは選手にとってどんな試合なのだろうか。

現役最後、と心に決めて挑む選手もいるだろう。一方長距離種目は目前に迫った駅伝シーズン開幕に向け、主力・エントリー当落戦場と立場は違えど、秋以降につながる一戦だ。

その大会で男子5000m覇者となった青学大の近藤幸太郎(3年)。今年の箱根駅伝では7区で区間3位と好走し、シード権争いから7位まで順位を押し上げたあの姿は記憶に新しい。

今年の箱根での力走、そして今回の日本インカレ男子5000m初優勝、5000mと1万mでの青学大記録保持者。ここだけ切り取れば、高校時代から名を馳せていたのではないかと思うかもしれない。

実際は、高校2年、3年と男子5000mでインターハイの地を踏むことはできたものの、決勝進出は叶わなかった。実力ある同級生に囲まれながら練習を重ねた近藤にとって契機になったのは大学1年・11月に行われた世田谷246ハーフマラソンだったのではないだろうか。初のハーフマラソンながら1時間3分40秒でフィニッシュ。出場こそならなかったものの、箱根駅伝のメンバー入りを手にした。

大学に入って2度目のシーズン。新型コロナウイルスの流行により、軒並み大会は延期・中止となった。それでも近藤は目標を見失わなかったのだろう。約半年ぶりのレースとなった7月。5000mで14分7秒89とベストを更新。夏合宿を経て、9月、10月と立て続けに13分台をマーク。11月には10000mで28分35秒28と、これまでの自己記録を約50秒短縮させた。

迎えた箱根駅伝では前述の通り、復路優勝に貢献。今シーズンは5000m13分34秒88、1万m28分10秒50と青学大記録を打ち立てた。

3度目の夏を経て、近藤は日本インカレ男子5000mのスタートラインに立った。レースが始まると躊躇わずにボニフェス・ムルア(山学大)が引っ張る先頭集団につく。途中先頭の入れ替わりがありながらも、近藤は冷静にレースを進める。先頭集団は4000mを通過したときに丹所健(東国大)、アニーダ・サレー(第一工大)、篠原倖太朗(駒大)の4名に絞られていた。

最初にラストスパートをかけたのは集団一番後方にいた駒大のルーキ篠原。ラスト1周の鐘を合図に篠原が飛び出す。一時2秒ほど近藤は離されたが、残り200mで抜き返すと後続を突き放し、ゴールに飛び込んだ。表彰台の一番高いところに立つのは高校2年の愛知県高校新人以来4年ぶりのことであった。

寒い冬を耐え忍んだ固いつぼみがほころび始めた昨年。今年、大輪の花を咲かせた近藤がエースとして駅伝シーズンの青学大を導く。これまで数多のエースが常勝軍団・青学を作り上げてきた。近藤はその歴史の1ページにどんな物語を紡ぐのだろうか。大輪の花はまだ咲いたばかりだ。

(「学生陸上スポットライト」野田しほり)