西山和弥、と聞いてどんなことを思い浮かべるだろうか。1・2年時に箱根駅伝1区で区間賞を獲得して強烈なインパクトを残しているが、西山の活躍は箱根駅伝だけではない。トラックでも実績を残している。

2018年6月22日、東洋大2年となった西山和弥は初めて日本選手権に出場する。種目は男子1万m。日本選手権の参加標準記録Aは28分20秒00だが、西山はこのタイムを満たしていなかった。同年2月の日本陸上競技選手権大会クロスカントリー競走で3位となり、かつ参加標準記録B(28分45秒00)をクリアしての参戦だったからだ。そのため、男子1万mに出場した選手の中で西山の持ちタイム、28分44秒88は一番遅かった。

しかし、自己ベストで一番劣る選手は、28分35秒72の4位でフィニッシュする。ゴールで喜びの表情を浮かべるかと思いきや、西山は喜ぶどころかそのままトラックに膝をつき、拳をトラックに叩きつけた。

初出場で、大学2年でこの順位。それを喜びもしない。東洋大を卒業するまでにどんな選手に成長するのだろうと期待をしたくなる一瞬だった。

トラックでいえば、昨年4月に行われた兵庫リレーカーニバル1万mの走りも印象に残っている。𠮷田圭太(青学大)が外国人選手、実業団選手とともにレースを進めるが、西山は先頭集団につくことなく自分のペースを維持する。終盤で𠮷田に追いつくと西山は抜き去り日本人学生トップでフィニッシュした。イタリア・ナポリでのユニバシアード選手権への出場権を獲得して、同大会では8位入賞を果たしている。

駅伝シーズンを迎えたあと西山の調子は一向に上がらない。出雲駅伝1区10位、全日本大学駅伝5区11位、箱根駅伝1区14位。今までの西山らしい走りとは程遠く、特に全日本大学駅伝では何かに苦しんでいるようにすら見えた。

春のトラックシーズンは軒並み中止・延期となり、最終学年となった西山の初レースは9月11日の日本インカレ1万mになった。最後のレースとなった箱根駅伝から実に8ヶ月ぶりのことである。

スタート直後から集団の中盤を陣取り、2000mを超えると先頭集団と徐々に差が開いていく。入賞圏外の位置でレースを進めていた西山だが、6000mを過ぎた辺りから前方を走る選手を次々と追い越していく走りを見せ、一人旅となる。

最後は4位まで順位を押し上げて、28分22秒48の田澤廉(駒大)に次ぐ日本人2位でフィニッシュした。タイムは28分43秒17。不調を脱出して、輝いていた頃の走りを取り戻しつつある。先頭集団につかず、自身のペースで徐々に追い上げるその走りはナポリ行きを決めた昨年の兵庫リレーカーニバルの時のようだった。

最後の箱根路まであと3ヶ月半。再び六郷橋でスパートをかけ、笑顔でタスキを渡す西山の姿を来年の新春に見ることができるだろうか。そして、実力が上の選手にも怯むことなく挑んだあの日本選手権の時のように、レースを楽しむ西山が待ち遠しい。

(「学生陸上スポットライト」野田しほり)