コーチは選手に対して手取り足取り多くの事柄を教えたくなることがあります。りしかし選手にとっては、フィードバック情報が詳しすぎるとこれらを処理しきれず、思うようにパフォーマンスが上がることはありません。またビデオからフィードバックを得る場合も、初心者であれば要点を絞って見る必要があります。ビデオから得られる情報は大量にあるので、選手は処理しきれなくなるのです。

アドバイスを受ける頻度についても、注意が必要です。ある実験では、「すべての試行において結果についてのアドバイス(〝結果の知識〟と言います)を受ける場合」と「試行回数の半数だけ結果のアドバイスを受ける場合」では、翌日以降に同様の保持テストを行うと「半数の頻度」でアドバイスを受けたほうがパフォーマンスは優れていたのです。これは、撮影したビデオを毎動作後に見る場合と、見る回数を半数にした場合でも、同様の結果が得られるでしょう。

また技術動作後、「即時に結果のアドバイスを与える場合」と、動作後「ある程度遅れてアドバイスを与えた場合」では、翌日以降に行った同様の保持テストでは動作後に「ある程度遅れてアドバイスを与えた場合」の方が良いパフォーマンスを得られる結果となっています。

悪いプレーがあったらすぐにアドバイスをしたくなる心境に駆られるのではないかと思いますが、そのタイミングでアドバイスを行うことは選手のためにはなっていないのです。

詳細なものよりは「簡潔に」「頻度は控えて」「ある程度遅らせて」アドバイスを行った方が技術の上達がなされていく現象を上述しましたが、これらに共通しているのはアドバイスなどの外在的フィードバックに頼りすぎると、パフォーマンスが落ちてしまうということです。アドバイスは技術を習得するためには分かりやすいきっかけを与えてくれますが、選手自身で得られる運動感覚の習得や自身で試行錯誤しながら技術を修正していくような内在的フィードバックを利用する工夫が抑制されてしまいます。

また、例えば試合でコーチのアドバイスが受けられない状況があれば、アドバイスに依存していた選手は力を発揮できなくなります。

このように外在的フィードバックに依存することがパフォーマンスを落とす原因となってしまうことを〝ガイダンス仮説〟と言いますが、選手自身が動作を自分で評価し、どのように修正すればよいかを考えることが上達につながるのです。

そこで、コーチは重要な情報のみをまとめて選手に簡潔に伝える、または「許容できる失敗の範囲」を超えた場合のみアドバイスを与えたりすることで、効果的な技能の習得につなげることができるでしょう。ビデオを使用する場合も、内在的フィードバックを損なわない程度に焦点を絞り、頻度を抑え、即時にチェックするのではなく練習後など時間間隔を設けると良いでしょう。

前回の例えで挙げた走り幅跳びのシチュエーションでいえば、練習中に例えば踏み切り動作で大きな狂いが生じていた場合には、アドバイスを即時に伝えます。ですが、そのほかに気になった事項については練習後に修正ポイントとして簡潔にまとめて伝え、なるべく選手自身が感じる内在的フィードバックを生かした技術の修正が行われるよう、口出しをし過ぎないことです。

初心者だけではなく、熟練者でも外在的フィードバックは成長する上で必ず必要になりますが、丁寧すぎる指導には弊害を伴うことを心得ておくことが大事です。

ただし、丁寧な指導を受ける方があまり詳細な指導を受けない選手よりも、やる気(内発的動機づけ)を高めているという研究結果も得られています。選手は指導者から気にかけられていると感じればやる気は高まりますし、気にかけられていないと感じればやる気を高めるきっかけのひとつを得られないでいます。監督やコーチは、内在的フィードバックを高められるような指導をしつつ、内発的動機も損なわないようなバランスの取れた選手との接し方が求められます。

※『note』より加筆・修正。

(「パフォーマンスを上げるためのスポーツ心理学」松山林太郎 )