競技を始めて間もないころであれば、技術を習得するために動きを部分的に分けて練習する場合があるでしょう。

例えば野球のスローイングで、下半身の動かし方と上半身の動かし方、腕や手首の使い方と、それぞれを分けて練習するようなケースです。これを〝分習法〟と言います。各箇所ずつで正しい動きを覚え込ませ、それによってスローイングなどのように連続させる動きを作り上げていく方法になります。技術習得の初期段階であれば、この練習方法は有効になります。

また、シチュエーションによって複数の技術から選択してプレーを行うものであれば、その技術それぞれを1つずつ分けて練習する分習法もあります。

再び野球で例を挙げると、バッターはヒッティングとバント、両方を選択肢に入れるシチュエーションがあります。ヒッティングの構えからそのままヒッティングかバントを行う、またはバントの構えからそのままバントかヒッティング(バスター)を行うケースです。この場合、ヒッティングの技術を身につける必要がありますが、選手によっては同時にバントの技術も必要となってきます。

そういった選手は、ヒッティングの技術を向上させるためにはヒッティングを中心とした練習を、バントの技術を向上させるためにはバント中心の練習を別々に行っているでしょう。バッターは状況によって異なった打撃法を発揮させる必要があるため、ヒッティングとバントを別々に練習する分習法も、ある程度のヒッティング技術やバント技術が身につくまでは有効な練習方法であるといえます。

しかし、ある程度の技術を身につけた段階になれば、分習法にあまり多くの時間を費やさないほうが良いとされています。

スローイングは下半身や上半身、腕などをそれぞれ意識するのではなく、すべてを一連の流れとして習得させていきます。またヒッティングとバントを別々に練習するのではなく、ヒッティングの構えからヒッティングやバント、バントの構えからバントやヒッティングができるよう合わせて習得させていく方が良いのです。

こういった練習法を〝全習法〟と言います。

分習法の方が分かりやすく技術を習得でき、心理的にも技術が得られる喜びを感じやすいことから、実際の練習では分習法を行っていることが多いかと思います。ですが、スポーツは動作の流れや動作と動作のつながりが重要で、実際の試合でもそれらが結果を大いに左右します。動作のみの練習ではなく、流れや動作間のつながりも学習できる全習法を用いた方が、結果として技術力は向上します。

また、全習法は技術動作だけではなく、ゲームの状況によって変わるプレーの選択や反応を上達させるためにも良い結果が得られます。

例えば野球のバッティングやテニス、バドミントンのような練習では、素振りを〇〇回といったような数を重ねることを目的とした練習があります。これも分習法のひとつになりますが、この練習ではゲームで起こるさまざまな状況を想定した練習にはなっていません。状況に応じたプレーの選択や、反応動作を鍛える練習にはなっていないのです。

そのほかの競技でも、敵対する相手のいない状況での練習(分習法)よりも、相手をつけた練習(全習法)の方がより実戦的で、プレーの選択や反応の精度は高まります。柔道でプレー選択・反応を高めることを主眼とするのであれば、投げる動作を繰り返す「打ち込み」の練習よりも、実戦的な練習となる「乱取り」のほうが効果があります。

実際の練習は分習法の方が行いやすく、全習法はより複雑になり、練習時間や手間が増えるかもしれません。それでも、練習は練習のために行うのではなく、試合のために行うものです。技術をたとえ習得したとしても、実戦で役に立たなくては意味がありません。さまざまな状況に対応できるプレーの選択や反応を鍛える練習が行えるよう、全習法の練習をより重要視してみましょう。

※『note』より加筆・修正。

(「パフォーマンスを上げるためのスポーツ心理学」松山林太郎 )