例年、トラックシーズンが始まる4月。今年は新型コロナウイルスの影響により、大会や記録会が延期・中止となった。本来なら新たなユニフォームに袖を通したルーキーたちが新風を吹かせている頃だ。そんなことを考えていたらふと、順大に進学した三浦龍司の走る姿が頭に浮かんだ。

三浦は洛南高で過ごした最後の1年、華々しい結果を残したからだ。

2019年6月15日には、男子3000m障害の高校記録を30年ぶりに更新した。従来の記録は1989年9月に櫛部静二(現・城西大監督)がマークした8分44秒77。順大時代に3000m障害でリオ五輪に出場した塩尻和也(現・富士通)は、最古の高校記録に何度も挑戦したが、0秒89差に迫るのが精一杯だった。

三浦は塩尻ですら届かなかった記録をいとも簡単に打ち破る。

インターハイの近畿大会決勝。スタートすると先頭に立ち、すぐに独走した。400m通過時で後続に5秒差をつけると、なおも突き離す。終盤大粒の雨が降り、条件は良くなかったが、フィニッシュラインを越えた時、トラックタイマーは8分39秒49を示していた。

中長距離種目は牽引する選手がいると記録が出やすい。しかし三浦は自身の力だけで櫛部のタイムを約5秒も塗り替えたのだ。

続く6月27日、三浦は日本選手権の舞台に登場した。高校生が参加標準記録を切ることは難しく、2000年以降で男子3000m障害に出場したのは塩尻と三浦しかいない。予選1組に出走した三浦は2400mほどまで先頭集団に食らいつき、8分39秒37でゴール。わずか2週間で再び高校記録を更新した。

翌々日の決勝でも高校歴代パフォーマンス3位の8分40秒30で5位入賞を果たしている。

その後、三浦はインターハイに出場。強風のなか、スタート直後から日本人を寄せ付けず、2位(日本人トップ)に入った。インターハイは各種目の上位8位までに得点が与えられ、強豪校は総合優勝を狙う。三浦は長距離のエースとして7点を獲得し、2年ぶりの総合優勝に貢献した。

高校ラストイヤーは3000m障害の活躍だけではなかった。2019年12月に5000mで13分51秒97をマーク。このタイムは今春、大学に進学した日本人選手のなかでトップとなる。大学での活躍に期待してしまう人は少なくないだろう。

三浦は塩尻が高校時代に越せなかった3000m障害の記録を更新し、5000mでは世代トップ。塩尻は3年時にリオ五輪の3000m障害に出場して、4年時には箱根駅伝〝花の2区〟で日本人最高記録(当時)の1時間6分45秒を打ち立てた。三浦は塩尻を超える学生長距離界のエースになることができるだろうか。順大のスーパールーキーが進む道は、パリ五輪、ロサンゼルス五輪へと続いているに違いない。

(「学生陸上スポットライト」野田しほり)