前回説明した多様性練習では、1つの技術を習得させるための方法として説明しました。続いては、複数の技術を習得させるために効率的な順序で練習する方法を述べていきます。テニスを例に挙げると、フォアハンドやバックハンド、スマッシュなど、さまざまな打ち方を習得する必要があります。卓球やバドミントンのようなラケットを使う競技も、類似するケースを想像することができるかと思います。

よく「フォアハンドを30本連続+バックハンドを30本連続+スマッシュを30本連続」と、ショットをひとつずつ習得させていくようにするドリル型の練習が行われているのではないでしょうか。これを〝ブロック練習〟と呼びます。

かたや「フォアハンドとバックハンド、スマッシュを無作為に30本ずつ分散させて合計90本」ショットする〝ランダム練習〟という方法もありますが、どちらかといえば、1つの技能から順番に集中して習得させようとするブロック練習を行っているケースの方が多いのではないでしょうか?

実際、練習の段階ではランダム練習よりもブロック練習の方が上達は見られます。ブロック練習によって、上手くなっていくことを実感しやすいのです。しかし多様性練習の説明でも出てきました、翌日以降も技術が身についているかどうかを見る保持テストや、サーブやボレーなど練習したスキルが応用できるかどうかを見る転移テストを行ってみると、ランダム練習を行った方が良い結果が得られ、ブロック練習では技術が習得されていないことが分かっています。以上の説明を、分かりやすく図に表しました。

ブロック練習とランダム練習のパフォーマンスの変化(出典:「やさしいメンタルトレーニング」図3-2)

ブロック練習は、練習段階では技術を習得できていますが、保持テストや転移テストではせっかく身につけていた技術がガクッと落ちて、身についていなかったことが分かります。かたやランダム練習は、練習段階ではブロック練習ほど技術が身についてはいませんが、保持テストや転移テストでは練習で身につけた技術がある程度発揮できており、試合に役立つ練習になっていることが分かるでしょう。

これらの現象は〝文脈干渉効果〟と呼ばれています。

こういった現象が起きる理由のひとつとして、技術を行う際には記憶されていたスキルを思い出して再構成する必要があり、その行為をランダム練習では繰り返してあらゆる技術の再構成を行うことになり、その記憶するべき再構成が多くなるランダム練習において技術が確実に身についていくと考えられています。

ほかにも、ランダム練習によって技術それぞれの動きの違いを明確に把握できるようになり、それによって正しい記憶が身についていく、という理由も考えられています。

先に、1つのスキルを身につけるためには恒常練習よりも多様性練習を行った方が良いという説明をしましたが、複数のスキルを身につける場合でも類似した結果となります。

ドリル型のブロック練習を行うことで、技術を身体に覚え込ませたいという思いがあるかもしれません。また練習段階から失敗せず、習得していくのを実感したいという考えもあるかと思います。実際、ブロック練習では上達する自分自身を感じることができます。しかしブロック練習では、覚えた技能を忘れやすく、練習した技能の応用にも発展していくことはありません。

上達した技能を発揮させるのは、練習場面ではなく、試合です。また、行った練習内容が、それとは異なる技能においても応用できるようになっている方が良いと誰もが思うはずです。練習では失敗を繰り返したとしても、恐れず、自信を失わず、技術が習得されていっていると信じながらランダム練習に取り組んでみましょう。

※『note』より加筆・修正。

(「パフォーマンスを上げるためのスポーツ心理学」松山林太郎 )