メジャー・リーグの1800年代後半から1920年代までは「デッドボール時代」と呼ばれる〝投高打低期〟で、2000投球回以上を対象とした通算防御率ベスト10に名を連ねる投手も全てがこの時期にプレーしている。

通算防御率ベスト10
選手名(所属チーム) 防御率 勝 敗(シーズン最高)
1 エド・ウォルシュ(ブレーブス) 1.82 195 126 1.27(1910)
2 アディ・ジョス(ナップス)1.89 160 97 1.16(1908)
3 モデカイ・ブラウン(カブス)2.06 239 130 1.04(1906)
4 ジョン・ワード(ジャイアンツ)2.10 164 102 1.51(1878)
5 クリスティ・マシューソン(ジャイアンツ)2.13 373 188 1.14(1909)
6 ルーブ・ウォッデル(ブラウンズ)2.16 193 143 1.48(1905)
7 ウォルター・ジョンソン(セネタース)2.17 417 279 1.14(1913)
8 トミー・ボンド(フージャーズ)2.20 180 106 1.68(1876)
9 ウィル・ホワイト(レッズ)2.28 229 166 1.54(1882)
10 エド・ロイルバック(ブレーブス)2.28 182 106 1.42(1905)
※2000投球回以上、2019年シーズン終了時

1位のエド・ウォルシュの現役時代は1904年から17年までとバッチリ「デットボール時代」と重なる。14年間の現役生活で2度最優秀防御率のタイトルを獲得しており、キャリアハイは1910年の1.27。ちなみにこのシーズン、ウォルシュの所属していたホワイトソックスのチーム防御率は2.03にも関わらずリーグ2位で、1位のフィラデルフィアアスレチックスは1.79だった。特にこのシーズンが特別と言うわけでなく、この時期は個人、チームともシーズン防御率のトップは1点台というのはごく当たり前のことだった。

ウォルシュの通算防御率を単年の防御率で上回っているのはのべ106人いる。意外に多いようだが、これもほとんどが「デッドボール時代」に集中している。

1960年代以降に記録しているのは、のべ17人。2000年にペドロ・マルチネスが1.74をマークして以降、21世紀になってからしばらく出ていなかったが、2014年にクレイトン・カーショウ(ドジャース)1.77、2015年にはザック・グレインキー(ドジャース)1.66、ジェイク・アリエータ(カブス)1.77、2018年にジェイコブ・デグロム(メッツ)1.70。

ナショナルリーグのトップレベルの投手の防御率は上昇傾向にあるのは確かだが、毎年平均して1.82を上回るというのは難しい。スタットキャストなどのデータ解析がより進化し、ディフェンス力が劇的に向上するなど野球の質が変化しないかぎり、ウォルシュの記録はアンタッチャブルレコードとして残り続けることだろう。

(「MLBアンタッチャブルレコードの真実」石川哲也)