通算奪三振の記録の上位に名を連ねる面々はほとんどが1980年代以降の選手ばかり。最多記録はノーラン・ライアンの5714だが、ライアンが1983年に56年ぶりに更新した当時のメジャー記録、ウォルター・ジョンソンの3508奪三振は現在では歴代9位の記録になっている。

通算奪三振ベスト10
1 ノーラン・ライアン(レンジャーズ) 5714(9.55)
2 ランディ・ジョンソン(ジャイアンツ)4875(10.61)
3 ロジャー・クレメンス(ヤンキース)4672(8.55)
4 スティーブ・カールトン(ツインズ)4136(7.13)
5 バート・バライレブン(エンジェルス)3701(6.7)
6 トム・シーバー(レッドソックス)3640(6.85)
7 ドン・サットン(ドジャース)3574(6.09)
8 ゲイロード・ペリー(ロイヤルズ)3534(5.94)
9 ウォルター・ジョンソン(セネタース)3508(5.34)
10 グレッグ・マダックス(ブレーブス)3371(6.06)
※( )内は奪三振率、2019年シーズン終了時

往年の大投手というとさぞかし三振を奪っていたような印象がある。しかし実際は現代野球の方が奪三振は断然多い。ウォルター・ジョンソンの通算奪三振の9イニング平均(奪三振率)は5.34に過ぎないが、ライアンは9.55と4近い差がある。かつてと比べ登板数、投球回が限られる現代の野球でも、通算奪三振の記録は、かつての記録と「勝負」できるジャンルなのだ。

理由には科学的トレーニングの普及により選手寿命が延びたことがあるだろう。ライアンといえばそのトレーニング法について記された『ピッチャーズ・バイブル』が有名だが、40歳を超えても160キロの豪速球を投げ込み、46歳までマウンドに立ち続けた。またかつてと比べて変化球の種類が増えて三振を奪う上で投手が有利になったことも挙げられるだろう。ライアンもタテの割れるカーブ、サークルチェンジなどの得意球があったし、2位のランディー・ジョンソンも高速スライダー、スプリッターと多彩な変化球を使いわけていた。

2019年終了時点でのメジャー現役最多はCC・サバシア(ヤンキース)が3093だが、近年、奪三振数が目に見えて減っており、39歳という年齢を考えても記録更新は難しそうだ。現役2位のジャスティン・バーランダー(アストロズ)は3006で、ライアンとは2708差。現在36歳なのでライアンと同じ46歳で追いつくとなると年平均270.8となる。2019年300を奪っているがちょっと難しそうだ。現役3位のマックス・シャーザー(ナショナルズ)は2692個で、3022個差。現在35歳なので46歳までには年平均274.7個、2019年は243で4年連続奪三振王のタイトルを逃しており、こちらも厳しい。ライアンの記録は現代野球で生まれた「伝説」といえそうだ。

(『MLBアンチャッタブルブルレコードの真実』石川哲也)