ある技術を身につけようと考えていると想像してみてください。ここでは、サッカーのフリーキックの技術を身につけることを例として示します。

フリーキックを上達させるためには、同じ位置から何度もキックを繰り返すのが良いと思いますでしょうか? それともいろいろな位置からフリーキックの練習をするのが良いと思いますでしょうか?

これは、同じ動作でドリルを行って習得する方がいいか、練習に多様性を持たせて技術を習得させる方がいいかという視点の違いになります。

そこで一方の練習法を、A点1カ所から40回フリーキックを行う〝恒常練習〟のグループがあるとします。またもう一方は、A点から10回、B点から10回、C点から10回、D点から10回の4カ所から合計40回フリーキックを行う〝多様性練習〟のグループがあるとしましょう。

両グループにA点からのフリーキックの出来をテストしたとき、練習を行っている段階では1カ所だけで行った恒常練習のグループの方がミスは少ない結果が表れます。しかし翌日以降にA点からのフリーキックをテストし、身についている(技術を〝保持〟している)かどうかをみると、4カ所からフリーキックの練習をした多様性練習のグループの方が上達している結果となっているのです。

同じ場所から繰り返して練習した方が技術は身につくと考えている人もいたかと思います。または「ここの角度からは確実に決められるようになりたい」と、同じ位置から何度も練習を繰り返す人もいるでしょう。しかし、A点での練習量が少なかったとしても、いろいろな場所から練習をした方が技術は上達するのです。

さらには、両グループがA~D点ではなく別のE点からフリーキックのテストを行い、練習したスキルが応用(〝転移〟と言います)できるかどうかをみても、4カ所から練習をした多様性練習のグループの方が技術の上達度が高まっているという結果になっています。どのような場面を想定しても、結果的に技術練習はドリルを繰り返すよりも、多様性を持たせた方が良いということが分かります。

ドリルによる反復練習を行えば、練習中に技術が上達していくことを実感できるので、良い練習ができていると感じるでしょう。しかし、実は効率的ではないのです。練習で失敗を伴いながら多様性のある練習を重ねていくことは、上達していく実感が湧きにくいかもしれません。しかしその繰り返す失敗が、実戦では技術が上達していく近道になるのです。

実際の試合においても、何度も同じような状況が巡ってくることはなく、さまざまな状況が起こります。したがって、出来る限り多様な練習を重ねておくことで、試合のどのようなシチュエーションでも柔軟に適応できるようになっていくのです。

練習では多様性を持たせ、繰り返される失敗にもめげず、上達していることを信じて行っていきましょう。

このたびはサッカーのフリーキックを例にとりましたが、他の競技における多様性練習を想定してみます。

バレーボールであれば、さまざまな位置から行うレシーブやスパイクの練習。バスケットボールであればさまざまな角度や距離を変えてのシュート練習など、球技であれば状況によって高い適応性が必要となるので、いろいろ多様なシチュエーションを想定する必要があるでしょう。

また、試合序盤と試合終盤では疲労度に違いが出るため、技術習得の際にはその違いを意識させた多様性練習も考えられます。疲労した状態でも対応できるような技術練習も想定しておくのです。さらには試合会場など、環境の違いもさまざまに想定しておく必要があります。慣れた試合会場では実力が発揮できても、慣れない試合会場に行くと本来の実力が出せない場合があるでしょう。そういったことがないよう、練習会場の環境でも多様性を持たせるといいでしょう。

天候においても、あらゆる状況に対応させる必要があります。例えば陸上競技では、短距離走や跳躍種目が風の影響を大きく受けてしまいます。追い風の環境だけではなく、向かい風が強い状況でも技能が適応できるよう環境に多様性を持たせると経験値が高まります。そのほか、雨が降る状況においても適応させられるよう想定しておく必要があります。このように、環境においても多様性を用いたさまざまな練習ができることが考えられます。どのような競技においてもあらゆるシチュエーションを想像し、練習に取り入れてみましょう。

※『note』より加筆・修正。

(「パフォーマンスを上げるためのスポーツ心理学」松山林太郎 )