メジャー・リーグのアンチャッタブルレコードは数あれど、その極めつけともいえるのが、今日でもシーズン最優秀投手賞にその名を残すサイ・ヤングの511勝だろう。1890年から1911年まで現役生活は22シーズンだったので年平均23.2勝、20勝以上を16回、30勝以上5回マーク(にもかかわず最多勝が4度しかない)している。

この頃、一チームの投手は3人程度しかおらず、もちろんローテーションも、先発、救援の分業制も確立されていなかった。1892年のシーズンなどは53試合に登板し48完投、36勝を挙げている。2019年シーズン終了時点で、現役選手最多の勝ち星はCC・サバシア(ヤンキース)の251勝。メジャー19年目、39歳になるサバシアの勝ち星の年平均は13.2勝、これまでの最多の先発登板が35なのだから、到底追いつける数字ではない。ヤングに続くのがウォルター・ジョンソンの417勝、実働21年なので年平均19.8勝で惜しくも20勝を割り込んでいるが、それでも凄まじい記録だ。

通算勝利ベスト10
名前(所属チーム) 勝利数 登板数 先発 引退年
1 サイ・ヤング(ラストラーズ) 511 906 815 1911
2 ウォルター・ジョンソン(セネタース) 417 802 666 1927
3 クリスティ・マシューソン(ジャイアンツ) 373 635 551 1916
3 ピート・アレクサンダー(フィリーズ)373 696 600 1930
5 ウォーレン・スパーン(ジャイアンツ)363 750 665 1965
6 キッド・ニコルス(フィリーズ)361 620 561 1906
7 グレッグ・マダックス(ドジャース)355 744 740 2008
8 ロジャー・クレメンス(ヤンキース)354 709 707 2007
9 スティーブ・カールトン(ツインズ)329 741 709 1988
10 エディ・プランク(ブラウンズ)326 623 529 1917
※2019年シーズン終了時(1900年以降にプレーした投手が対象が)

通算勝利ベスト10となると、極端な投高打低だった1900年代前半の「神話時代」の記録が並ぶのかと思いきや、意外に年代は分散しており、80年代以降にプレーした投手も3人いる。これは投手分業制の徹底、科学的トレーニングの導入、そして惜しくも300勝には届かなかったが288勝を挙げたトミー・ジョンの受けた腱移植手術の一般化など、一線で活躍する選手寿命が延びたことが挙げられるだろう。ベスト10投手中2000年代までプレーしたグレッグ・マダックス、ロジャー・クレメンスはいずれも40歳を過ぎて15勝以上を挙げている。ヤングの記録更新はを難しくとも、今後ベスト10入り投手が出る可能性はありそうだ。

(『MLBアンチャッタブルブルレコードの真実』石川哲也)