イチローが2004年に達成したシーズン最多安打は262本。更新されることはないであろうと思われていた記録を塗り替えたという点で特筆できるだろう。250安打以上の記録はイチローを除いて1930年以前に達成されており、かつてのジョージ・シスラーの記録257本も1920年のもので84年ぶりの記録更新だった。

シーズン安打ベスト10
順位 選手名 安打数 単打率 打率 年度
1 イチロー(マリナーズ) 262 .859 .372 2004
2 ジョージ・シスラー(ブラウンズ) 257 .665 .407 1920
3 ビル・テリー(ジャイアンツ) 254 .697 .401 1930
3 レフティ・オドール(フィリーズ) 254 .713 .398 1929
5 アル・シモンズ(アスレチックス) 253 .688 .387 1930
6 チャック・クライン(フィリーズ 250 .572 .386 1930
6 ロジャース・ホーンスビー(カージナルス)250 .592 .401 1922
8 タイ・カッブ(タイガース) 248 .681 .420 1911
9 ジョージ・シスラー(ブラウンズ) 246 .724 .420 1922
10 イチロー(マリナーズ) 242 .793 .350 2001
(2019年シーズン終了時)

記録を更新した2004年シーズンのイチローの単打率は.859と極めて高い。1897年のウィリー・キーラー.808、1896年のジェシー・バーケットの.796を上回っている。キーラーは1892年から1910年までメジャーリーグでプレーしており、グラウンドにボールを叩きつけ内野安打にする「ボルチモアチョップ」という戦法を得意とした。

バーケットは1890年から1905年までプレー、投手と本塁の距離が50フィートから60フィート6インチに広がったことをきっかけにバントを多様し安打を稼いだと言う。04年のイチローもゴロアウトがフライアウトの2.37倍(平均1.2倍)あり徹底的に打球を転がし、262本の安打のうち59本が内野安打だった。ボールが飛ばなかった1800年代後半のように、コツコツと単打を狙い、足を生かす、野球の原点に回帰したようなイチローの打撃スタイルが記録更新を後押ししたといえるだろう。

現役選手に絞ってシーズン安打記録を見るとトップは2014年ホセ・アルトゥーベ(アストロズ)の225本が最多で、歴代では56位の記録となる。

(「MLBアンタッチャブルレコードの真実」石川哲也)