コロナウイルスが流行の兆しを見せたため招待選手・エリート選手以外の参加が中止になるなど、異例のレースとなった東京マラソン。迎えた当日、スタート時の気温はすでに11度を超え、選手を待ち構える沿道では、時折吹く冷たい風が心地よく感じた。観戦の自粛要請が出ていたものの、沿道には多いところで二重、三重の人垣ができていた。多くのファンが、大迫傑、設楽悠太、井上大仁の〝3強〟が顔をそろえるなど、昨年9月のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)を彷彿とさせるレースを見守った。

豪華メンバーのなかで、学生トップの28位でゴールしのが國學院大4年の土方英和だ。今季の活躍は目覚しく、関東インカレ2部ハーフマラソンで優勝、日本インカレ1万mで日本人トップ。駅伝シーズンでは國學院大の躍進に大きく貢献した選手である。

今回用意されたペースメーカーの設定タイムは国内最高記録を目指す2時間3分4秒~46秒と日本記録更新を目指す2時間5分11秒。スタートすると土方は第2集団の後方でレースを進め、ハーフのポイントを1時間2分23秒で通過した。

しかし、後半は日本記録更新ペースについていくことができない。集団から離れた後も粘りの走りを見せたが、35km過ぎにペースを大幅に落とし、2時間9分50秒でゴールテープを切った。

2月の別府大分毎日マラソンで吉田祐也(青学大)がマークした2時間8分30秒(歴代学生2位)には及ばなかったが、学生歴代3位タイの好タイム。コース、気象条件、レース展開が異なるとはいえ、35kmの通過タイムは吉田よりも土方の方が34秒上回っていた。

惜しくも終盤にペースを落としてしまったが、序盤からハイペースだったレース展開を考えれば大健闘したと言ってもいいだろう。1週間前にクロカン日本選手権で優勝したチームメイトの浦野雄平に続いて、土方も國學院大での最終レースを次に繋がる良い形で締めくくった。

土方や浦野の同学年にあたる1997年生まれの長距離ランナーは、「学生長距離界のエース」と言われる相澤晃(東洋大)、大学生で唯一の1万m 27分台の阿部弘輝(明治大)、東海大の「黄金世代」など有力ランナーが多い学年である。1年時より駅伝でも活躍をしていた土方と浦野だが、國學院大でのラストランでその存在感は増し、彼らも1997年世代を牽引していく選手となっただろう。

今大会は大迫傑(ナイキ)が2時間5分29秒でフィニッシュし、自身が持つ日本記録を塗り替えた。4月から実業団で競技を続ける1997年世代が凌ぎを削って、各種目で日本記録を塗り替えていく日はそんなに遠くないのかもしれない。

(「学生陸上スポットライト」野田しほり)