『球聖』タイ・カッブが引退していた時点で持っていたメジャーリーグ記録は90にも及ぶといわれるが、そのほとんどが更新されてしまった。しかし通算打率は未だに破られず、今後も破られそうにない。

通算打率ベスト10
1 タイ・カッブ(アスレチックス) .367 (11429-4191)
2 ロジャース・ホーンスビー(カージナルス).358 (8173-2930)
3 エド・デラハンティ(セネタース) .350 (6988-2443)
4 トリス・スピーカー(アスレチックス) .345 (10195-3514)
5 テッド・ウィリアムス(レッドソックス) .344 (7706-2654)
6 ビリー・ハミルトン(ブレーブス) .344 (6269-2159)
7 ダン・ブラウザーズ(ジャイアンツ) .343 (6251-2144)
8 ベーブ・ルース(ヤンキース) .342 (8399-2873)
9 ハリー・ヘイルマン(レッズ) .342 (7787-2660)
10 ウィーリー・キラー(ジャイアンツ) .341 (8591-2932)
(2019年シーズン終了時)

カッブがタイガースでメジャーリーグデビューしたのは1905年。当時はボールの飛ばない「デッドボール時代」といわれる時期で、球場も外野が広く、一発長打を狙うよりも、コツコツと単打を重ねて、盗塁や犠打で得点を奪う野球が主流だった。

カッブは24年間の現役生活で4191安打(歴代2位)をマーク。シーズン最高打率は1911年の.4196(歴代3位)、翌12年も。4087(歴代4位)を残すなど、計3度4割を打ち、首位打者12回、引退した1928年のシーズンでさえ95試合に出場し.323打っており、3割を切ったのはデビュー1年目だけ。カッブの引退と入れ替わるようにして、ベーブ・ルースによる「ホームラン時代」がやってくるが、カッブは「デッドボール時代」の申し子だったといえるだろう。

通算打率.366がどれだけすごい数字なのかは、単年の打率と比較するとよくわかる。41年にテッド・ウィリアムスが最後の4割を記録して以降、シーズン打率がカッブの通算打率を上回ったのは18人しかおらず、その顔ぶれも2度上回っているウィリアムスのほかスタン・ミュージアル、ウェイド・ボックス、トニー・グウィンなど各時代のそうそうたるヒットメーカーが並ぶ。21世紀に入ってからは2002年のバリー・ボンズ(ジャイアンツ).369、2004年のイチロー(マリナーズ).372の二人しかいない。2019年のシーズン終了時点で通算打率の現役最高はミゲル・カブレラ(タイガース)とホセ・アルトゥーベ(アストロズ)の.315ということを考えると、もはや伝説の領域といって良さそうだ。

(「MLBアンタッチャブルレコードの真実」石川哲也)