今シーズンの戦いぶりや、軽井沢国際カーリング選手権大会(以下軽井沢国際)の囲み取材で選手が話してくれた言葉を交えて、有力チームを中心に全農日本カーリング選手権大会(以下日本選手権)を展望する。女子に続いて、今度は男子だ。

本命は、やはり現日本代表のコンサドーレ札幌だろう。コンサドーレ札幌を追うのは、今シーズン両角友佑が結成したTM軽井沢と、山口剛史が新メンバーを迎えて結成2年目のSC軽井沢クラブの2チームか。チームの完成度は、コンサドーレ札幌が頭一つ抜き出ているが、追いかける2チームも着実にチーム力が上がっており、面白い戦いとなりそうだ。

各大陸で世界選手権出場枠を勝ち取れなかった国が残り2つのイスをかけて争った1月の世界最終予選。コンサドーレ札幌が出場枠を取れなかったことは、正直なところかなり意外だった。

それぐらい、軽井沢国際で見たコンサドーレ札幌は強かった。

世界選手権2連覇中のTeamエディンをして「フロントエンドが良くて強かった」と言わしめた、リード阿部晋也とセカンド谷田康真の安定したセットアップ。スキップの松村雄太が「僕たちのストロングポイントはそこだと思っている」と話すドローウエイト(石を置くショットを投げる強さ)の正確さはチーム全体を通して高い。

そして、チームに好不調の波が少ないのも強さを感じた要因の1つ。軽井沢国際の準決勝Teamボッチャー戦に勝利した後、「全体的に良いところもあり悪いところもあり、それを補い続けられたのかなと思います」と松村は試合を振り返った。多少のミスが出たとしても、リードの1投目からフォースのラストショットまでの計8投で見れば、一定のパフォーマンスがキープできている。だから、〝良くない試合〟のレベルも高い。良い試合もあれば悪い試合も出てくる長丁場の大会になれば、それは大きなアドバンテージになる。

「最近は有難いことにすごいエグい相手とたくさんやれているんで、そういうのを前提としてカーリングを作っていったら、大分余裕ができるようにはなりました」

今シーズンは、地元のどうぎんクラシックと軽井沢国際を含め、ツアー大会で4度の優勝。軽井沢国際の1週間前には、グランドスラムの1つであるブーストナショナルにも招待された。チームは、日本選手権を優勝し世界選手権4位の成績を収めた昨シーズンからさらにレベルアップしている。このコンサドーレ札幌の壁を破るのはそうたやすいことではない。

「両角友佑がどんなチームを作ってくるのか?」という楽しみは、カーリングファンの大きな関心事の1つだろう。TM軽井沢に対する期待と注目は高い。

「まだまだですね。50%いくかいかないかぐらいだと思います。お互いのことを知らなければいけないし、知るためには各個人がそれなりに安定しなければならない」

軽井沢国際の囲み取材で、両角友佑はチームの成熟具合を問われてそう答えた。石をハウスに溜め込んで自分のペースに引き込んでいくTM軽井沢のカーリングがハマった時は強い。どうぎんクラッシックのTeamマクドナルド戦、軽井沢国際予選リーグのTeamボッチャー戦と世界の強豪を沈めた試合は見事の一言に尽きた。その一方で、うまくハマらなかった時の脆さはまだ残る。チームの最大値と最小値の差がまだ埋まり切れていない印象だ。

ただ、結成から約半年でここまできたかという印象もある。

8月のどうぎんクラシックの時点で「(遠慮やためらいは)まだありますね」と答えていた時に比べれば、「その辺のコミュニケーションに関しては徐々に成長しているのかなと思います(両角友佑)」と話すようにチームに一体感が出てきた。

結成間もないチームほど成長スピードは速い。加えて、メンバーは平昌五輪代表の両角友佑、公佑の兄弟に、2018年日本選手権覇者の岩井正幸に宿谷涼太郎と実績充分な布陣だ。

「日本選手権までどれだけ自分の状態をいい状態でキープするかが大事だと思っている。今回は場面場面でミスが出ているので、そういうのが2月にはほぼないくらいにしたい(両角友佑)」

TM軽井沢は、軽井沢国際からの1か月余りで一番変貌を遂げる可能性を秘めている。

チームの成長という部分では、SC軽井沢クラブも見逃せない。

昨シーズン、平昌五輪代表の山口剛史がスキップとなって新メンバーを迎え新たに結成したSC軽井沢クラブ。山口は8月下旬から約2か月のカナダ合宿に行ったことによるチームの大きな成長を話してくれた。

「試合の経験値というのはそれぞれ個を見ると少なかったので、毎週試合をやっていたのはかなりいい経験をさせてもらった。単純ですけど練習の成果を出すというプロセスがしっかりできるようになってきた」
「コミュニケーションの取り方とか、チームで作る作戦というのが大分フィットしてきて進む方向というのが一直線になってきた感じがある」

今シーズンは、ポジション変更もおこなっている。「元々スキップをやっていてドローが得意なタイプ(山口)」の大野福公(ふくひろ)をセカンドからリードに配置。今シーズンからサードを務める高校3年生の栁澤李空(りく)は、山口が「波はありますけど、いい波の時は相当いいパフォーマンスをする。強くさせたい」と期待を寄せる若手だ。メンバーの適性をチームに活かしながらチームの骨格が出来上がってきた。

SC軽井沢クラブのカーリングは、相手に応じて展開に応じて柔軟に攻守を使い分けるオーソドックスなカーリングだ。あえて、色をつけるならコミュニケーションだろう。チームで相談する姿や、山口がメンバーを呼んで一緒に囲み取材を受ける姿。そこには、結成初年度だった前回の軽井沢国際の時に「コミュニケーションを重要視したい」と話していた山口のチーム作りへの想いが垣間見えた。

「大分見通しはついてきた。まだまだ遠いんですけど、大分道は見えてきたのでコツコツと」(山口)

「学び」というニュアンスの発言が多かった昨シーズンに比べれば、今シーズンはチームへの手応えが感じられる。コンサドーレ札幌にとっても決して油断できない存在になりそうだ。

男子と女子を2回に分けて、優勝候補に挙げられるチームを紹介してきた。日本選手権前の読み物として楽しんでいただければ有難い。そして、一昨年11月から連載してきたこのコラムも今回が最終回となる。カーリングの基礎知識、大会取材の様子、スーパーショットの紹介など、カーリングファン初心者からコアなファンまで楽しめるようにと無い知恵を振り絞りながら連載してきたつもりだが、正直どこまでご満足いただけたかは自信がない。ただ、読んでいただけたことで少しでもカーリングという競技に興味を持ち、そしてカーリングにひたむきに向き合う選手達の想いが伝われば嬉しい。

このような機会を与えてくださったVenuSports様、僕の拙い取材を快く受けてくださった選手達、コラムを読んでくださった読者の方々にこの場を借りて感謝申し上げたい。そして最後に一言。

カーリングが、もっと多くの人に楽しんでいただけるスポーツとして定着しますように。

(「ようこそ カーリングの世界へ」土手克幸 )