2月8日から、軽井沢アイスパークで全農日本カーリング選手権大会(以下日本選手権)が開催される。男女とも出場する9チームのうち8チームが既に決定。残り1枠は、大会前日の7日に各地方大会2位のチームによるワイルドカード枠出場決定戦を行い、出場チームが勢ぞろいする。そこで、今シーズンの戦いぶりや、軽井沢国際カーリング選手権大会(以下軽井沢国際)の囲み取材で選手が話してくれた言葉を交えて、有力チームを中心に本大会を展望してみたいと思う。

女子は中部電力、ロコ・ソラーレ、北海道銀行、富士急の4チームが実力的には抜けている。その中でも、優勝争いの中心となるのはロコ・ソラーレか。

準優勝に終わった昨シーズンの日本選手権では、優勝した中部電力に予選とプレーオフを通じて3敗。北海道銀行や富士急との戦いも決して楽ではない接戦。国内のレベルアップを肌で感じたシーズンだった。

「色んなチームが切磋琢磨してレベルが上がっているので、私たちもそれ以上にレベルを上げていかないと、というのは昨シーズン感じていた。それを意識した今シーズン、調子が上がってきている」(藤澤五月)

迎えた今シーズン、ロコ・ソラーレの戦いから感じたのは、相手に応じて戦い方を組み立てていく対応力の高さだ。それは、軽井沢国際の囲み取材で藤澤が話していた言葉からも感じられた。

「相手の作戦とスタイルによって自分達もしっかりと戦えるような作戦とアイスリーディングをやっていきたい」
「今シーズンは昨シーズンより自分達のチームがわかってきた。相手のスタイルを読んで柔軟に対応する能力が問われている」

お互いのスタイルをぶつけ合うカーリングで押し切ってしまうのではなく、相手の出方にしっかり対応し封じ込んで、自分達の良さだけを活かしていく。「剛」から「柔」へ。ただ強いチームから、強くて上手いチームへと進化を遂げているロコ・ソラーレは、対戦相手にとって今まで以上に厄介なチームになりそうだ。

ロコ・ソラーレの老練さに対抗するには、昨年の中部電力のような勢いが欠かせない。今、その勢いを最も感じるのが富士急だ。

チーム結成時からのメンバーである西室淳子とその夫でもある西室雄二コーチが離脱した直後の8月のどうぎんクラシックではチーム体制の変化に苦慮していたが、軽井沢国際の準決勝ではロコ・ソラーレに惜敗したものの、「勝ったんですけど、勝った感がない」(藤澤)と相手に言わせるほど、互角以上の戦いを見せた。

その好調ぶりを支えているのが、セカンドの石垣真央とサードの小谷優奈の頑張りだ。「セカンドサードでショットが良く決まるようになって、私の時にいいショットが回ってくるようになった」とスキップの小穴桃里が話すように、ポジションと役割の変化に苦慮していた8月のどうぎんクラシックの面影は消え、またスイープも力強さを増した。

また、今シーズンからカナダ遠征に帯同し、日本で大会の際には来日するカナダ人コーチの存在も見逃せない。「自分達が気付いてないところをしっかりリマインドさせてくれる」(小穴)ことが、チームの成長を後押ししているようだ。

「到達したいレベルがあって、(手で指し示しながら)これぐらいまできたと思うんですけど、ずっとこの間が埋められなくて。あとちょっとしたことで変えられるんだけど、そのちょっとしたことが自分達でもよくわからなかったりしたものを、コーチに指摘してもらったりして埋まってきたのかなと」(小穴)

秋にカナダでおこなった2回の長期合宿は、4人で同じ家に住んで自炊をしながら過ごし、ツアーを転戦した。大変なことを一緒に乗り越えて、チーム力が上がったという実感もある。夏の時点では、他の3チームにやや水を開けられていた富士急が一気に頂点に上り詰める可能性は充分ある。

国内4強の残りの2チーム、北海道銀行と中部電力はどうか。

「決めないと勝てないような強い相手と今シーズン戦ってきた。アイスの読みやコミュニケーションは昨シーズンより良くなってきている。ただ100%出し切れてないもどかしさもある。噛み合えば、全然勝てる相手だと思う」

軽井沢国際の予選リーグ2試合目のTeamロス戦に敗れた後、北海道銀行のスキップ吉村紗也香が悔しそうに話した言葉は、チームの今シーズンをよく表している。

北海道銀行は、日本のチームではロコ・ソラーレに次いでツアーランク上位のチームだ(2月3日時点で8位)。今シーズン、ツアーランクでは常にトップ10前後をキープしているし、10月にはグランドスラムの1つであるマスターズで準優勝を果たすなど、強豪と渡り合えるだけの手ごたえは感じている。

ただ、それが国内の大会に中々直結しない。地元開催のどうぎんクラシックではロコ・ソラーレに快勝するも、予選リーグで2勝1敗の三つ巴になり予選敗退。軽井沢国際は、予選リーグでは富士急、プレーオフではロコ・ソラーレに敗れ、最終結果はベスト8にとどまった。海外ツアーで活躍しながら、日本選手権の予選リーグで国内4強を形成する他の3チームに敗北し、最終的に3位に終わった昨シーズンがあるからこそ、そのもどかしさはより強いだろう。

北海道銀行は、そのもどかしさの打破をどこに求めるのだろうか。「昨シーズンより個々の安定性が上がってきている」と吉村は話す。より安定感を高めるのか。それとも、自ら試合を動かすような思い切った作戦なのか。チームに勢いをつけるためにも、北海道銀行にとって、予選リーグ初戦でぶつかる富士急戦はとても大事な1試合になりそうだ。

軽井沢国際の囲み取材で、「日本の世界選手権出場枠のために戦ったPACC(パシフィックアジアカーリング選手権)が終わって、気分が楽になれた部分はありますか? 」という僕の問いに、中部電力のスキップ中嶋星奈は独特の表現で答えてくれた。

「PACCが終わって、ああ、シーズン終わったんだーという気になったんですけど。それを今大会の雰囲気で、まだまだだったーと切替えられました」

昨シーズンの日本選手権覇者である中部電力は、日本代表として11月にPACCに出場した。最大のミッションは、上位2チームに入ることで日本の世界選手権出場枠を勝ち取ること(結果は2位で出場枠獲得)。今度の世界選手権は、成績に応じて北京五輪の出場国争いに関わる五輪ポイントが与えられる大事な大会。中嶋のコメントを見ても、今シーズンの中部電力においてPACCへの比重は相当高かったはずだ。

国内4強の他のチームに比べると、今シーズンの中部電力は海外ツアーで目立った成績が残せていない。地元で優勝を目標にしていた軽井沢国際も、ベスト8止まりに終わった。「課題のアイスリーディングができた試合とできなかった試合の波が激しかった」と中嶋が振り返るように、完勝したような試合もあれば、集中力が途切れたようなミスが続く試合もあった。集中力の持続が日本選手権連覇のカギとなりそうだ。

それでもチームに悲壮感はない。

「プレッシャーがある方が結構私たちのチームは強いので。いい感じのプレッシャーがあるのが丁度いい」

中嶋は明るくそう言い放った。どんな大舞台でも緊張せずにマイペースでプレーできるのは中部電力の長所でもある。その本領が発揮されれば、昨年の日本選手権で見せた強い中部電力の再現があるかもしれない。

国内4強の実力は紙一重だ。どこが優勝してもおかしくない。最後まで目の離せない戦いになることは間違いなさそうだ。

(「ようこそ カーリングの世界へ」土手克幸 )